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踏ミ出シタソノ足ハ改

踏ミ出シタソノ足ハ改<Epilogue>

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〈epilogue〉



 文化祭の賑わいの中を抜けていき、やがて正門の前に着く。
「久しぶり」
 啓がこちらに気づいて手を振った。
「演劇、良かったよ」
「ありがとう」
 ――まだまだ、悔しいところがいっぱいあるけどね。
「なんでもそうだって。最後の最後まで納得できるものなんて、なかなか出来るものじゃないよ」
 啓がそう言いながら、どこかに入ろうよ、と歩き出した。
「隣のクラスがカフェやってたから、そこに行く?」
「うん。どこでもいいから、とりえあえず座りたい」
 つい数カ月前とまるで変わらない口調で話しながら、啓は足を早めた。私は慌ててその歩調に合わせる。
「啓は最近どうなの?」
「どうって?」
 ――学校休んで、勉強してるんでしょ。
 そう言うと、
「うーん、勉強と言うより実習かな」
「……実習って勉強の一環じゃないの」
「まぁ、そうなんだけど……。とにかく、大変だけどすごく充実してる。自分がこの選択をしてて良かったってよく思うよ」
 啓はさらりとそう答えた。
 やはり――啓は凄い。そう思う。
 カフェに入り、窓際の二人席を陣取った。それぞれ冷たいジュースを注文し、やがてそれが届くと、
「じゃあ、乾杯」
 と啓がグラスを取り上げた。私もそれにならって、カチリとコップ同士をぶつけ合わせる。
「お互いのがんばりに乾杯」と啓は言った。
「お互いの将来に乾杯」と私は言った。
 オレンジ色と紫色の液体が、コップの中で揺れた。

          □■□

 啓の『明日の十二時に正門前で』というメモを読んだのは、演劇の片付けが終わった文化祭一日目の夜の事だった。啓が見に来てくれていたことは知っていたけれど、毎日忙しいだろうから、そんな時間も取れないだろうと思っていた。嬉しくなった。

 演劇はまずまずと言ったところだった。でも、最高だった。
 演劇の質としてどこまでいったかというと、それは素人の劇だから、という範疇にどうしてもおさまってしまう。しかし最後の二週間もがき続ける中で、いつしか一秒も無駄にしない空気が出来上がっていた。それは、本当にみんなが一つの目標に向かった時にしかできない、最高に楽しい空気だった。
「思ったより笑ってくれた」
 演劇が終わった後、みんなはそう言って笑った。本当に必死だったからこそ、最後にそうやって笑えるのだ。
 事実、そうだった。
 本当に、予想以上にお客さんは笑ってくれた。
 
 やってみて、一つ分かったことがあった。
 中学のあの時、私は本当に本気ではやっていなかったことだ。
 悔しい。
 そう私は演劇が終わった後に思った。やろうと思っていたことがぜんぜんやれなかった。でも、できたこともあった。
 悔しさと、楽しさが一緒に存在していた。悔しいけれど、楽しい。そんなことがありえるのだと、初めて知った。 
 悔しいのは好きだからだ。楽しいのも、好きだからだ。
 だからこそ、私はこれからも何かしらの形で演劇をやっていくのだろう。
 目標に向かって、選択し、時には失敗し、時には成功しながら、前に進んでいく。そんなビジョンが、私の中で少しずつ見えてきていた。

          □■□

「一つ、紗綾に言い忘れてたことがあって」
 今日はそれを伝えに来たのだ、と啓は言った。
「――なに?」と尋ねると、
「なんか、すごくに言いにくいんだけどさ」
 啓は頬杖をついて、少し目をそらした。まるでいたずらを告白しようとしているような様子だ。目が完全に泳いでいる。
「飯岡が、紗綾のことを私に聞いたって、言ってたと思うんだけど」
 記憶を掘り起こすと、確かにそんなことを言っていた。あの時私は、飯岡を問い詰めたのだった。
「ホントはね、私はなにも飯岡に教えてない」
「……は?」
「だから、飯岡はもともと紗綾が演劇部だったってことを知ってたんだよ。私のところには確かめに来ただけで」
 驚いたけれど、かといってどのように反応していいか分からなかった。
「それを聞いて、どうしろと言うんだね?」
 口をすぼめて、低い声で聞き返すと
「その先は、本人に聞いて。たぶん、面白いことになるから。ヒントは……たぶん、アンケートかな」
 啓はそう言ってから、素早く話題を切り替えた。『面白いこと』が果たして私にとってなのか、啓にとってなのか、追及しても良かったけれど、あまりにも啓が必死だったのでそれ以上はやめておくことにした。
 飯岡には近いうちに問いただしてみることにしよう。

          □■□

 目覚まし時計の音とともに目をさますと、急いで着替えはじめた。習慣が抜け始めているからか、今までは目覚まし時計より早く起きていたのができなくなっている。
 七月とはいえ、まだ朝五時ともなれば、空気は澄んで少し肌寒いくらいだ。
 文化祭が二日にわたって開催された、さっそくその次の日。私は、三か月ぶりに朝日を見に行こうとしていた。
 薄手のパーカーを羽織り、田んぼの中を抜けていくと、見慣れた土手が見えてくる。しかし、いつのまにか草がぼうぼうに生え、よじ登れなくなっている。ちっと舌打ちをして、少し遠回りになるけどきちんと舗装された道を通って土手の上に出た。
 オレンジから青までに変わるグラデーションが、空を綺麗に染め上げている。
 きれいさっぱり梅雨が明けた夏空は、大きな雲もなくきっぱりと晴れ渡っていて、気持ちいいほどだった。
 今日の日の出は――
 腕時計を確認すると、あと三分だった。歩くスピードまでは変わっていなかったらしい。待つのには丁度いい時間だ。
 ふと目を閉じると、この三か月間のことが頭に次々とよみがえってきた。
 始まりは、学校で飯岡が「演劇をやろう」と言い出したこと。その理由は、今でもよく分からない。あの時の説明がとってつけたものであるのだけは、よく分かっているけれど。
 そして、次の日。飯岡がここに現れたのだ。
 そこからすべては始まった。
 そして三か月の間に、私は前を向いて、二年間動かしていなかった足でようやく一歩を踏み出した。
 自分で最後には判断して、選び取る。そのようにして前に進んでいかなければならないのに、それは皮肉にもいろんな人に支えられている。それまで関わった人すべての支えがあって、初めて私たちは、自分の選択をすることができるのだ。
 そのように考えると、本当にこの世は不思議なことばかりのような気がしてくる。
 山際が赤く光り輝きはじめ、太陽がまもなく上ることを告げている。それを決して見逃さないように、じっと目を凝らしていると、どこかで自分の名前が呼ばれたような気がした。
 しばらくすると、やがてはっきりとその声が聞こえてくる。それとともに、自転車をこぐ音も聞こえた。
 私は思わず振り返ってしまった。
 そこには、ハンドルに肘をついて荒く息をつく、飯岡がいる。
 飯岡は乱れた息のまま、
「よう」
 と手をあげた。
 その瞬間、視界の端で太陽が顔を出した。
 息をのむような美しさだった。この美しさを見るためだけであっても、何度も来たい、どう思ってしまうほどに綺麗だった。
 きっちり二分間。
 太陽が完全にその姿を見せ終わるまで、それを見つめ続け、また飯岡の方を向き直った。
「ねぇ、一つ聞いていい?」
「いいよ。なに?」
 私は、次に飯岡にあったときに最初にしようと決めていた質問を口にした。
 


 ――なんで、演劇をしようと思ったの?








 【完】











 ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。


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