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踏ミ出シタソノ足ハ改

踏ミ出シタソノ足ハ改<第七話>

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〈7〉


 演劇部に入ることに決めたのは、中学に進学して数日経った時の事だった。
 自分が一番年上だった小学校から、突然自分より年上か同年代しかいないところに入り、自分自身なんだか新鮮さにあふれていた頃。なんでもできるような気がしていた。すべてが、これからのような気がしていた。
 ちょうど新人勧誘の為にされた演劇部の公演をみて、私は何かにとりつかれたようになった。
 それは、ほとんど練習もされていないような、まるでコントのような演劇だった。いや、演劇とすら言えないかもしれない。
 ただ、それをやっている人たちの楽しそうな空気に、私は憧れたのだった。
 ――こんなことをやってみたい、と。
 同じようにして演劇部に入ることを決めた同級生が何人もいる中で、私はこの部活を誰よりも楽しんでやる、とそう決めていた。

 先輩たちは文句なしに格好良かった。
 格好良いくせに、なんだか親しみやすかった。最高の部活だと思った。こんな幸せに部活をやっている人は他にいないんじゃないか、とすら思うほどに。
 そうやっていく中で、私は演劇をする楽しさにもどんどんと目覚めていった。
 もっと――もっといい演劇がしたい。そうやっていく中で、私の頭を離れないものがひとつあった。それは私が初めてこの演劇部に関係する所で見た、新人勧誘の時のコントだった。あの楽しそうな雰囲気を、私は絶対にやりたかった。
 次の年、三年生が卒業公演と共に引退し、次の年の新人勧誘の時期がやってきた。ほかのクラブが一斉に勧誘をはじめる中で、演劇部は舞台を使って勧誘をするのだ。しかし、実際そこまで時間を取ってやるものではなく、だからこそ毎年有志でコントのようなものをやっていたのだという。それを聞いて、今年の有志を募るという話が出た時、私は誰よりも早く手を上げた。
 ――それは、とても楽しかった。
 劇を作っていくのがとても面白かった。いろんなアイデアを出しあって、それを実行していく中でいつも笑いがあふれていた。
 自分たちで簡単に書いた台本で、たくさんの人が笑ってくれた。
 演技をしているのに、演技をしていないような、本当に観客と一緒になったようなそんな経験だった。そして、その年もたくさんの新入部員が入ってきたのだった。
「あれ、ほんとうに楽しいですね」
 その新人勧誘の劇が終わった後、私はそう部長に話しかけた。
 部長は、ニヤリと笑って、ああ、と言った。
「でも、もっと面白いものが演劇にはあるよ」
 さらりと言われたその言葉に、私はどこか反抗心を覚えていた。あれより、楽しいものがあってたまるか。そう思ったのだ。しかし、私より一年長くこの部活にいる部長は、もっと楽しい物を知っているのではないか、とも思った。
 次の年、部長たちが引退して、私達が最高学年になった。
 その年の新人勧誘も、私は参加した。
 やっぱり楽しいと思った。ほかの演劇をやっていても楽しいけれど、こんなにも楽しいのはこれだけだ。その時から、頭に一つの構想があった。私たちの卒業公演は、現代コメディーをしよう。最後だからこそ、ほんとうに楽しいことをしよう。そう思っていた。誰にも決めさせない。これは私の選択だ。
 元部長はちょくちょく顔を出しに来ていた。
 そして、卒業公演の話がちらほら出始めた頃、私は、頭の中で描いてきた構想を何の気なしに元部長に話したことがあった。すると、元部長は顔を曇らせ、
「やめておいたほうがいい」
 と言った。
 ――絶対に後悔するから。
「しないですよ」
 私は反抗した。
「絶対に後悔しません」
 同じように絶対で対抗した。
 私にはむしろ、卒業公演で歴史的な長編だったり、青春モノだったりをする先輩たちのほうが信じられなかった。最後にはもっとワイワイと楽しくやりたかった。社会問題だったりなんかを最後に真剣に考えて終わりたくない。もっとぱあっと終わりたい。
 元部長は、顔をますます曇らせた。でも、それ以上は何も言わなかった。言いたいことを飲み込んだようにも見えた。
 ついに卒業公演の演目の話が出た。
 私は迷わず、
「オリジナルで現代コメディー」
 と言った。
 みんな賛成した。
 けれど、先生だけ反対した。理由は元部長と同じだった。もっとしっかりとした作品にしろ、と言う。
「楽しいのことの何がいけないんですか」
 そう言って対抗すると、元部長と同じような顔になって、
「本当にそれでいいなら、いい」と言った。
「言いに決まってるじゃないですか」と私たちは言った。
 先生は頷いて下を向いたきり、動かなくなった。私たちは、自分たちのやりたいことを、勝ち取ったのだった。

 演劇は順調に進んでいった。
 それは、はじめから予想していたとおり、とても楽しい毎日だった。充実していた。ここまで、毎日学校に行くのが楽しみだった時のないのではないかと思うほど、私たちは楽しんで演劇づくりに励んでいた。
「――絶対に後悔するなよ」
 練習が始まった初日、先生が三年生を全員集めてそう言った。
「はい」
 そう答えながら、――するわけない、そう思っていた。
 私達が、自分たちがやりたいことを選択したんだ。それを後悔するはずがない。その思いが、胸のうちに熱く湧き上がった。
 そう、これは私たちの選択だ。
 楽しかった日々が一瞬で過ぎ去り、本番の前日になった。コンディションは最高で、明日の本番が楽しみで仕方がなかった。絶対にうまくいく。これまでで一番楽しい演劇になる。そんな確信があった。
「楽しんでいこう!」
 私の飛ばした言葉に、円陣を組んだ仲間たちが答える。
 本番当日。
 そこで初めて、私のその確信が打ち砕かれたのだった。

 ――本当の楽しさとは。
 自分たちだけでは作れないものなのだと、イヤというほど思い知らされた。
 私達の最終公演は、無残な失敗に終わった。いや、成功したのかもしれない。ある意味、お客さんたちは楽しんで帰ってくれた。セリフは間違えたりなんかしなかった。演技での失敗があったわけでもない。ましてや、本番中に大道具が壊れたりしたわけでは全くない。
 ただ、私達が楽しめなかったのだ。
 本番中。私達が狙っていたはずの所で、客からはあまり笑いが起きなかった。もしかしたら、スベったのかもしれない。そんなことはある、仕方がない。しかし、次も、また次もそうなってくると、しだいに焦り始める。何が悪いんだろう。
 そんな時、ふと私たちの作ってきた演劇の全体像が見えた。それは、ただの自己満足の塊だった。楽しんでやる。そのことに囚われ過ぎて、私たちのコメディーはただの内輪受けになってしまってたのだ。
 客はそれでも笑ってくれた。少しずつその雰囲気に慣れてくると、逆に笑えるものなのかもしれない。劇が終盤に近づくにつれ、客の笑いはすこしずつ大きくなった。
 切り替えなければいけない。
 せめてこれが終わるまでは開き直って、精一杯楽しんで、演劇をしなければいけない。そう分かっているのに、演技をすればするほど、セリフをしゃべればしゃべるほど、私の心は灰色に、硬くなっていってしまうようだった。
 万雷の拍手と共に幕が降りた。
 私には、その拍手がまるで届いて来なかった。どこか遠くで鳴っているような気がした。その拍手が向けられているのは、私たちの「演劇」に対してじゃない。違う。何かが違う。
 初めて、先輩たちがなぜコメディーを最後にしなかったのかが分かったような気がした。
 本当に演劇をやって楽しもうと思ったら、お客さんがほんとうに楽しくならないと意味がない。自分たちが楽しいだけではやっていけないのだ、と。
 そうして、私の中学時代最後の演劇は終わった。

 ――みなさんのとても楽しそうにやっている姿が、とても良かったです。ほんとうに楽しいんだろうなぁ、と見ていて思いました。僕も高校に上がったら何かの機会で、みなさんのように楽しくコメディーをやってみたいです。
「15歳、男子だってさ。同い年じゃん」
 ひらりと紙を後ろに回し、部員の一人が言った。
 演劇が終わり、学校の近くのファミレスで打ち上げをしている最中に、みんなでアンケートを読もうという話になったのだ。一人がそれを読み上げて、みんなで聞く。けれど私の耳には、それらはほとんど入ってきていなかった。いや、聞かないようにしていた。聞くのが怖かった。
 プロじゃあるまいし、アンケートに厳しいことを書く人なんていない。それでも、その裏に隠されている感情があるのではないかと思うと、本当に怖かった。あの時、あんな選択をしていなければ、部長や先生の言うことを聞いていれば、こんな事にはならなかったのに。
 次々と浮かんでくる自責の感情に、押し流されてしまいそうだった。
「……紗綾、大丈夫? 紗綾?」
 声をかけられて、慌てて焦点を合わせると、打ち上げの席にいたみんなの視線がこちらを向いていた。
「大丈夫」
 反射的にそう答えて、首を振ると、クラクラとして前が霞み始めた。
「やっぱり大丈夫じゃないよ。無理はしないで帰ったほうがいいんじゃない?」
 今日は大変だったしね。仕方ないよ。
 本気で心配してくれている友だちの言葉に押されて、私は立ち上がった。
「うん、じゃあ先に帰らせてもらうね。ごめん。みんなは楽しんで」
 自分の食べた分だけお金を置いて椅子を引いて通路に出ると、お大事に、今日は楽しかったね、ありがとう、また話そう、そんな言葉が後から追いかけてくる。
 それを振り払ってでも、私は早くこの場を立ち去りたかった。
 みんなのように、私はいられない。
 私は――

「――絶対に後悔するなよ」

 先生の顔が、部長の顔が、先輩たちの顔が頭に浮かんでくる。
 それら全てに責められているような気がして、私は足を早めた。店の外に出ると、少し空気が軽くなったような気がする。けれど夜の闇に、どこか底知れない恐怖を感じて、私は走りだした。耳元で聞こえる風の音がやがて遠のき、自分の息遣いだけが大きく聞こえる。足が地面をけっている感覚すらない。
 ただ、私が逃げているのだ、という実感だけがありすぎるほどあって、私を家へと走らせていた。
 家に帰り着くと、脇目もふらずに自室にこもった。着替えてベッドに潜り込み、電気を消す。目をつぶれば眠れるのではないかと思った。けれど、むしろ今日のことが、いままでのことがありありと頭に浮かんできて、私は居ても立ってもいられなくなった。また電気をつけ、カバンの中から台本などの演劇関係のものを全て取り出した。机の上やタンスの上などに積み上げられていた、これまでの台本や資料なども全て集め、一つの段ボール箱の中に詰め込む。フタを閉めて押し入れの中に仕舞い込んだ時、初めて一つのことが終わったような気が、私はした。
 凄い脱力感が体を襲った。
 ベッドに潜り込み、電気を消すと、今度はすぐに眠りについた。
 夢は見なかった。

 次の日、途中で帰ったから、と渡されたアンケートをあの段ボール箱の中に仕舞い込んだ。
 ガムテープで頑丈にフタを締めた後、今度こそ押入れの一番奥に段ボール箱を押し込んだ。






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