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踏ミ出シタソノ足ハ改

踏ミ出シタソノ足ハ改<第六話>

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〈6〉



 青い少し上等な紙で装丁されたそれをめくると、自分が色ペンで印をつけた役名とセリフが目にとびこんできた。良くできている。
 確かにその台本は面白かった。
 シンデレラを下敷きにして、それを現代風のコメディーに仕上げてある。そして、最後にはきちんと感動させて終わるつくりになっていて、この作品を作った人は相当に頭を絞ったのだろう。
 けれど飯岡にあまっているという台本をもらい、部屋で目を通したとき、ずっと不安に思ってきたことがやっぱり当たっていたことが分かった。
 確かに面白い。笑える、どころか爆笑できる。
 でも、それはある意味――自分たちだけなのだ。

 ――内輪受け、だ。

 随所にいかにもといった感じで散りばめられている内輪ネタ。その原因は明確だった。
 このままでは、本当の楽しさにはたどり着かない。作っているときは楽しいかもしれないけれど、本番が終わった後に、本当の楽しさは味わえない。
 いや……これは私だけなのかもしれない。普通の人は、あれで満足して十分に楽しいと思うのかもしれない。 
 伝えるべきか、伝えないべきか。
 私には自信がなかった。私が思っていることを、感じていることを、みんなが感じるとは限らない。むしろ感じないほうが可能性は高いだろう。
 それに、これはただの文化祭だ。そんなことまで考える必要はないのかもしれない。もしかして、クラスメイトの反感を買ってしまうのではないか、そう思うと怖かった。そして、あとから参加した自分がそんな偉そうな意見を言うこと自体に気後れする部分も多かった。
 私の考える、本当の楽しさ、を求めるために、ある意味これまでやってきたことを否定するような発言をし、空気が悪くなるよりは、なんとかこのまま楽しくやれる道を探すほうがいいのではないか。そんな考えが頭をよぎる。
 けれど、その一方で、演劇をやっている人たちの中には、自分たちの演劇がどこか面白くない。そう感じている節がある。それは、私と同じなのかもしれない。 
 伝えるべきか。
 伝えないべきか。
 その二つに板挟みになって身動きが取れなくなってきた時、私はそこから逃げ出す術を、一つ思いついた。
 自分で台本を直してみよう。
 演劇の練習メニューを組んでみて、うまくいくようなスケジューリングをしてみよう。
 それが出来てから、この話をみんなにするかどうか考えればいいのだ。
「よし」
 そう頷いて、台本を閉じた。青い表紙が目に飛び込んでくる。その青が、どこまでも奥へと続いていく底しれぬ深さを湛えているような気が一瞬した。

          ■□■

 台本自体は一時間くらいのもので、実際キャラのセリフはそこまで多くない。内容も軽くノリの部分が多いためか、ヒロインのセリフを覚えるのは一瞬だった。
 初めて演劇の練習に参加したのは、台本をもらって二日後。授業が終わったあとの教室で、机を脇にどけて全ての場面を見せてもらった。その上で、いろんな役の人と読み合わせをしたりする。
 その時にひとつ分かったことがあった。
 この演劇が、飯岡が言っていたように「笑えなくなっている」理由。そのひとつはアドリブにある。それぞれが自分の感性でアドリブを入れているがために、全体の空気が統一されず、なおかつリズムが崩されてもともとある面白さが半減しているのだ。
 また、それぞれの笑わそう、と言う姿勢も問題だった。自分たちがコメディーをやっているという自覚が変な方向に働き、客を楽しませる部分をむしろ自分たちで楽しんでしまっているのだ。極端に言えば、自分で言ったことに自分で笑ってしまう子どものようなもので、それが面白いわけがない。
 コメディーは、役者が本気でやっているからこそ、客は笑うのだ。
 ただ、それが分かっても私は何も言わなかった。
 ――言えなかった。

 演劇の本番――文化祭まではあと二週間半。
 私が入った状態での通し練習はまだ出来ていない。むしろ、ヒロインが新しくなった分、みんな混乱している。いままでともリズムが違うのだろう、とてもやりにくそうにしている。
 そんな中で、台本の直しだけは着々と進んでいた。
 演劇の練習が終わったあとに、家に飛んで帰り台本を修正していく。
 ――このセリフは要らない。
 ――ここは説明不足。
 ――この場面は丸々カット。
 そんな作業を繰り返していくと、少しずつ本番にうまくいくイメージが頭の中に膨らみ始めた。これなら、本気で笑いを狙える。前から考えていることも伝えて、そうすれば本番はきっとうまくいく。
 イメージが膨らみ始めると、その作業はだんだんと楽しくなってきていた。

          ■□■

「なぁ、神井。どんな感じ?」
 そう飯岡が声をかけてきたのは、本番のちょうど二週間前。練習が一段落ついて皆が帰る準備を始めた時の事だった。土曜日。明日の日曜日は練習は休みになっている。
「どんな感じって?」
「大きな声では言えないけどさ」
 そう言って飯岡は声を落とした。
「役者組。ちゃんと進んでるか? 俺、最近場所取りとか連絡とかでぜんぜん練習に参加できてないからさ、心配で……」
「――たぶん、一応」
 そう曖昧に答えたのには意味があった。実際、嫌な空気自体は直っていない。それでも、私というイレギュラー要素が加わったことで、みんなの意識が少しずれ、楽しそうな空気が戻ってきているような気がしていた。
 そんなことを話すと、飯岡はほっとしたように息をついた。
「神井だけが頼りなんだ。よろしく頼むよ」
 安心しきった目でそう言われ、私は心の中で後すざりした。――よろしく頼まれても困る。私はそんなに凄い人間じゃない。そう返そうとした矢先、突然飯岡がよろめいた。慌てて身体を支える。
「大丈夫?」
「あ、ごめん」
 飯岡が慌てたように言った。
「なんか、安心したら脱力しちゃってさ」
 照れ隠しのように、頭を軽くかいてみせる。
「まだ早いよ」
 と返すと、そうだな、と飯岡が笑った。私も笑った。二人で笑いあった。
 ――いま、私はなにをしているのだろう。そんな疑問が首をもたげた。自分自身と向き合うため、前に進むために演劇に参加したはずなのに、結局いまなにも出来ていない。
 もしかして、これはいつものパターンなんじゃないか?
 また、これから頑張ろう、と始めて結局そこで終わってしまう。そんな事になっているんじゃないか?
 ダメだ。
 前に進むと決めた。何としてでも。こんなところで踏みとどまっていてはいけない。逃げようとする心に自分でムチを打った。ここで逃げたら、私は一生逃げ続けることになってしまう。
「あと……二週間だよね」
 そう言うと、飯岡はコクリとうなずいた。
「おう」
「良い演劇にするために、やれる限りのことをやらなくちゃね」
 自分に言い聞かせるように言った。
 やれること、やらなければいけないことはもう分かりきっている。ただ、それを実行する勇気。それがない。何かの後押しが欲しい。
「うん、今なにかやり残したら、絶対に後で後悔する」
 飯岡も自分に言い聞かせるように言った。
 けれど、それを聞いて私は、なにか自分が整理されたような気分になった。「後で後悔する」――それだ。私はそれがイヤなんだ。後で後ろを振り返って悩まなくていいように、前を向いて前へ進んでいけるように、だからこそいま向き合わなければいけないんだ。
「ごめん、帰る!」
 沸き上がって来た思いが萎えてしまう前に、どうしてもやりたい事があった。やりたい事ができた。中学の頃のアルバム。演劇の思い出。押入れの奥に仕舞い込んだそれを引っ張り出して、自分で整理しよう。しっかりと向かい合おう。そこからなにが生まれるのかはわからないけれど、なにかが前に進む。それだけは確信していた。

 走って家に帰った。
 弾む息もそのまま、押入れをがらりと押し開ける。その一番奥に埋まっているダンボール箱を引きずりだし、しっかりと封をしているガムテープを引き千切った。
 埃の匂いがする。
 ここの奥に押し込んでから、もう二年ちょっと経つ。その間に私はなにも前に進んで来なかった。でもこれからは進む。絶対に進んでやる。その思いをもう一度確認し、ダンボールの中を改めた。 
 雑多にいろんなモノが詰め込まれているその一番上には、クリアファイルの中に入った書類の束があった。
 ――アンケート。すぐにピンとくる。
 その下には、いままでやってきた台本、その為の資料。参考のために買った本。私があの三年間かけてやってきたことの全てが詰まっていた。
 あのころは、なんでこんなにいろんな事がやれたんだろう。不思議と嫌な思い出よりも、そう思った気持ちのほうが先にあった。

 ――なんであれから、前に進めなくなったんだろう。
 私はようやく、そう考えた。
 





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