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踏ミ出シタソノ足ハ改

踏ミ出シタソノ足ハ改<第四話>

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〈4〉
 

 
 日がますます長くなり、古びた扇風機がかくかくと揺れながら首を振る季節になった。
 ――六月。
 文化祭まではあと一ヶ月と迫っている。 
 演劇は順調に進んでいた。台本を自分たちで作ることになり、大小道具や台本、演出に役者などのグループに分かれ、それぞれの作業を着々と進めていた。
 飯岡はそれらすべての司令塔のような立場にいるらしい。一応リーダーとしていろんな連絡を取ったり、はたから見ても忙しそうにしている。
 私は、ときおり飯岡の持ちかけてくる相談に乗り、それ以外は特に関わっていない。
 そう、これでいい。これが私の望んでいたことだ。
 淡々と日常が過ぎていく。一応この高校に進学していた時から定めていた大学に焦点を絞り、ただ毎日それに向けての勉強を続けていた。
 いつしか、朝日を見に行く習慣はなくなっていた。その代わり、定期的に「Cafe 綺月」へ立ち寄り、マスターと話をするようになった。カフェはいつも人が少なく、ほとんど私の貸切状態になる。
 それで経営が成り立っているのかと不安になり尋ねてみると、
「大丈夫だよ、たぶんね」
 とマスターははぐらかしたように言った。

 ふつうの平日である今日もまた、学校が終わってその帰りに立ち寄っていた。
 私は、ずっと胸に秘めてきた一つの質問をついに口にすることにした。
「マスターって――男なんですか?」
「どっちだと思う?」
 間髪入れずにそんな返事が帰ってきた。
「……え?」
「本当にいつ質問するんだろうって思ってさ、待ってた。ほかのお客さんはみんな、すぐに尋ねてくるのに、紗綾だけはぜんぜん尋ねないからね」
「一応、気遣ったつもりで……」
「自分の容姿くらいは分かってるつもりだよ。それにどちらかに見られたかったら、それなりの格好をする」
 思い返せば、マスターが男っぽい、もしくは女っぽい服装をしているのを見たことはない。それが営業スタイルと決めているのか、趣味なのか、いつ行っても黒のジーパンにタートルネックを着て、クリーム色のエプロンをつけている。
「ふうん、で、マスターはどっちなんですか?」
 すこし図々しいかな、と思いつつも聞くと、
「どっちだと思う?」
 と同じ答えが返ってきた。
「……結局、答えてはくれないわけでしょ」
「そう。ほかのお客さんには答えたんだけど、紗綾には言わない」
「なんで?」
「……なんでだと思う?」
 私は言葉に詰まった。
「じゃあ、今度までに考えてきます」
 ちょっといろいろと考えなおしてみようと思い、そう言うと、マスターはうなずいた。
 今日もミルクコーヒー、マスターの特性ブレンドで300円。マスター曰く破格の安さだそうだ。どうにも嘘くさい。
 店の外に出ると、向かいの民家の照りつけられた瓦屋根が、やけに暑そうに見えた。触ったらやけどでもしそうだな、と思った。

          ■□■

 結局私の達した結論は、マスターは女である、ということだった。なんとなく、受け答えが女っぽいのと、チラシの文字が、どうみても男の書いた文字には見えなかったのだ。
 もちろん、マスターは「そう思う?」と笑っただけで、本当のことを教えてはくれなかった。
 けれど、私はそうに違いないと思っている。

「なぁ、神井」
 昼休みに入って慌ただしく教室から人が出入りするようになると、飯岡が机のところへとやってきた。本番まであと一ヶ月を切っているからか、来る頻度が最近多い。
 来るたびに、来ないで、と思う。
 私なんかを頼っちゃダメだ。
「舞台のことなんだけどさ……」と言い出したのは、教室を演劇の舞台に変えることについての、相談だった。
「ごめん。よく分からないかも。本とかで調べてみたら?」
 するりと逃げを打つ。
 すると、飯岡は残念そうな顔をした。
 前から相談を受けても、こんなことが続いている。そのたびに、飯岡は、いまのような残念そうな顔をする。まるで、期待はずれだとでも言うように。
 けれど、私はそれを不快には思っていなかった。むしろ、ほっとしている部分もあった。
 期待なんかしてくれないほうがいい。そちらのほうが、私の身の丈に合っている。私は、飯岡が期待しているような、そんな人間じゃない。ただの、何もできない、目標もない、漠然と生きているだけのそんな人間なのだ。
 もっと、失望してくれていい。
 けれど今回は、飯岡は食い下がった。
「それがさ、やっぱり本で調べただけじゃ、どうしようもないと思うんだよ。実際にやってみたことがある人にしかわからない事ってあると思うしさ。それに」
 その先に続く言葉は大体予測できた。
 飯岡を中心に立ち上がっている演劇グループに正式に入ってくれ、とそう言うのだろう。ただ、相談を受けるだけではなく、もう一歩踏み込んで欲しいと、そう言おうとしているのだ。
「ごめん。無理」
 先を続けようと息を吸った飯岡を遮るように、私は鋭く言った。
「なんで?」
「なんで、って最初にそう約束したよね?」
「したけど……したけどさ、でも――」
「ごめん、無理」
 同じ言葉を繰り返すと、飯岡はようやく諦めたように首をふった。
「分かった」
 内心ほっとしたその感情を、表には出さないように努めながら、
「ごめんね」
 すまなさそうな顔をしてみせると、飯岡はしぶしぶ納得したといった表情でもう一度首を上下させた。

 去っていく飯岡の背中を見つめながら、鬱屈とした気持ちが心の中に溜まっていくのを感じていた。
 ――これが、本当に私の望んでいたことなのだろうか。
 ふと浮かんだ考えを、私は強引に振り払った。




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