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踏ミ出シタソノ足ハ

踏ミ出シタソノ足ハ<第六話>

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【6】

 新しい一週間が始まり、入念に準備を繰り返してきたHRの当日、飯岡は学校を休んだ。啓も休みだった。
 担任によると、二人とも風邪という連絡があったらしい。
 もともとは板書をするだけの予定だった私は、突然のことに戸惑った。昨日まで飯岡が凄く元気そうで、風邪というのが信じられなかった。
「その……今日は、文化祭でやりたいことを募集したいと思います。それを元に、来週決定するので……」
 代わりに司会をすることになり、私はたどたどしくみんなに説明した。
 けれど、返ってくるのは暖かくも冷たくもない、ただ無関心な空気だった。心底、早くここから出ていきたい、そう思う。けれど、それを堪えることこそが私が変わっていける第一歩だと思い、かろうじて崩れそうな顔を保った。
 沈黙はやがて、ざわざわとした落ち着きのない空気へと変わった。
 誰か、案をだしてよ。
 そう、心のなかで呟いた。けれど、ざわめきが大きくなる以外、なにも変わらなかった。
 もう嫌だ。これが変わろうとすることなら、変わらなくてもいい。ついそう、思ってしまった。『絶対に見つけてみせるよ』、そう言った飯岡の顔が霞む。
 自分に失望した。
「案がまだ無いようなので、次回まで期限を延ばします。各自考えてきてください」
 そう小声で言って、逃げるように自分の席へと戻った。
 こんな事で逃げ帰った自分が、嫌で嫌で仕方がなかった。――ごめんなさい。そう、心の中で啓と飯岡に謝った。

 次の日の朝。自然と四時半に目が覚めた。
 そのまま、着替えて外に出る。早朝の涼やかな風が、腫れぼったいまぶたに当たって、後ろに流れていく。山間部では雨が降ったのか、川は濁流となって激しく流れていた。その音を聞きながら、ただ、いつもの公園を目指して歩く。身体が自分のものではないように、意識にもやがかかっていた。
 ベンチに座ると、後ろに手をついて東の空を見上げる。
 朝日がのぼると一日が始まる。ただ数学的に決められた時間じゃない、本当の生きた時間が――一日が始まるのだ。それは、この世界でなにが起こっていても、絶対に変わらなくて、ただ繰り返されている。
 この朝日に力をもらって、そして飯岡に出会って、新しい一歩を踏み出せたと思っていた。けれど、それは違った。なにも変わっちゃいない。この世界も、私も、なにも。
 成長することと、変わっていくことの違いはなんだろう。成長していくのは、何かを始めていくことで、変わっていくことは、何かを終わらせることだ。私には、成長することも、変わることもできない。ただ、時間が止まっている。
 空のグラデーションが鮮やかに、初夏の空気を彩っている。
 まもなく日が昇るのだろう。
 やがて、昨日からは少しだけずれたところから、一筋の光が放たれた。それは、一日の始まりを告げる光のはずなのに、私には一日の終りを告げる光にしか見えなかった。
 そしてその日、私は学校を休んだ。

 啓や飯岡は、私を笑うだろうか。失望するだろうか。
 なにも考えずに周囲にながされていく自分が嫌で、けれど変わることができなくて、飯岡の一言で目覚め、啓の言葉に救われ、そして一歩を踏み出して――それでも踏み出したその足は幻影に過ぎなかった。
 変わったことは変わった。
 けれど、こんな変わり方なら、私は変わりたくなかった。
 自分の惨めさに涙がとめどなく溢れて、ベッドのシーツにへとこぼれ落ちていく。すでに大きな染みができているそこには、ちっぽけな自分が写っていた。
「なんで……」
 ほとんど言葉にならない声が漏れた。
 分からない。
 なにが正しかったのか、なにが間違っていたのか。たった一週間の中で、たったそれだけのことが分からなかった。
 こんなとき、飯岡ならまた立ち上がるだろう。啓なら、表情ひとつ変えずにすべてを受け流すだろう。けれど私は、みじめに這いつくばって、立ち上がる勇気の持てない自分を許して、その惨めさに泣いている。
 そうして一日、ベッドの上で泣き続けた。
 そしていつのタイミングかはわからない。後悔の感情は、いつのまにか諦めに切り替わっていた。これらすべては、私が勝手に思っていただけで、実際にあのふたりにはなにも迷惑はかかっていない。HRのことは十分あとで取り戻せる問題だ。
 心の底から沸き上がってくるいろんな思いを、すべて氷でできた檻の中に閉じ込め、私は部屋を出る。世界は、心なしか灰色がかって見えた。
 それでもまだ「変わりたい」そう言い続ける声には、幾重にも頑丈な鍵をかけた。




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