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踏ミ出シタソノ足ハ

踏ミ出シタソノ足ハ<第四話>

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【4】

 始まってしまったことは、もう取り返しがつかない。
 その日の放課後から始まった話し合いで、昼休みに飯岡が確認してきたらしいことを共有し、HRで話し合う内容と日程を決めた。さっそく次回から、何をするのかの案を集めなければいけない。
「オレ、そういえば言ってなかったけど、レン。飯岡蓮。改めてよろしく」
 放課後、残っていた私のところにやってくると、飯岡はまた同じように手を差し出した。握手に応じると、やはり大きな手のひらに圧倒された。背は私より低いのに、なぜ手は大きいのだろう。
「私は……」
 そう言いかけたところで、飯岡に遮られた。
「あ、知ってる。サヤだろ紗綾。神井紗綾だよな」
 名前をそう連呼される。そしてそのまま話し合いが始まった。
 実際話し合いをする中で、飯岡の発言は外見に似合わず安心感があった。それは、彼自身が行動することを前提としているからだろうか、回りくどくないすっぱりとした意見を言うヤツだった。
「たぶん、みんなはヤル気ないだろうけどさ、それでもクラスで最後にやる行事だから、精一杯やりたいよな。楽しい思い出を残してさ、それで卒業していったら、絶対に未来が変わると思うんだよ。ただ、勉強だけやって進学していくよりも、絶対に学ぶことがあるはずなんだ」
 心の中で芽生えた期待は、たった一日のうちにどんどんと大きくなっていった。
 教室の壁に貼り出す、大まかな工程表の制作を引き受けてしまったのも、そんな期待感が心を覆っていたからだった。
 彼についていけば私は変わっていけるのではないか。そんな確信に満ちた期待だった。

 家に帰って勉強をしなかったのは、これが初めてだった。
 今まで動画を見ることくらいしか使ったことのないパソコンに向かい、初めてエクセルというものがあるのを知った。なぜだかやけに詳しい弟のレクチャーを受けながら、工程表を完成させていく。文化祭までにあるHRの数と、そこでしなければいけない内容を表にした、人生初のエクセル作業が終わったのは、夜中の十二時だった。
 ふとラジオをつけると、今日もまた同じ番組をやっている。しかし、パーソナリティーは変わっているようで、また違うタレントが出ていた。今度は名前しか知らない人だ。
 着替えて布団に入ると、今日の出来事が頭に浮かんできた。気の迷いのように立候補した、文化祭の担当。たった一日それをやる中で味わった、不思議な充実感に私は酔いしれていた。飯岡の行動力、発言力に引っ張られるようにして、私は変わっていけるような気がした。
 いつのまにか、『変わりたい』というその声を私は肯定している。
 それは、変わることができる、そう実感したからかもしれない。存外に現金な自分の感情に、私は自虐的な笑みを贈った。
. 目覚まし時計を四時半にセットし、すぐに眠りにつく。毎朝の習慣になっている、朝日を見ることを止めるつもりはまったくなかった。

 目覚まし時計のアラームがたてる電子音に目を開ける。
 四時間半しか寝ていないのに、やけに頭はすっきりとしていた。顔を洗って着替え、そのまま家の外に出る。空はすでにずいぶんと明るく、東の空には赤みがかった雲がいくつか浮いている。
 早朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、川沿いのサイクリングロードを目指した。歩いて二分程度のところにある。川沿いの土手の上にあるからか、遮蔽物がない状態で東の空が見えた。
 真っ黒なシルエットとなって視界の下の方で連なる山々と、その下に広がる町。そして幅の広い川を挟んで、私たちの住む町がある。
 サイクリングロードをしばらく歩くと、やがて小さな公園に着く。
 ここは、昼間こそ子どもたちが集まる場所になっているが、さすがに四時ともなると人がいない。そこのベンチの一つに腰を掛けて、朝日がのぼるのを待った。
 早朝の、まだ日がのぼる前の空気は、なにか特別なものを持っている。道を歩いていても、ベンチに座っていても、なにか自分のしていることが特別な色を帯びるのだ。その感覚が、私は好きだった。
 やがて、一筋の光が山の一端からこぼれ落ちた。
 その光が、一瞬にして周囲の景色を明るく塗りつぶしていく。当然私も塗りつぶされる。朝日を浴びていると、私の中が綺麗になっていくような気がした。心のなかでせめぎ合っている窮屈とした感情から、この時だけ解放されるのだ。いいのか悪いのかは分からない。ただ逃げているだけなのかもしれない。けれど、私は朝日を見るのが好きだった。
 新しい一日を始めさせる朝日が、私に新しいことを始めさせる勇気を与えてくれているみたいだった。
 家に帰ると、朝ごはんまでにずいぶんと時間があった。
 その時間を利用して、昨日出来なかった分の復習と予習を済ませる。時間は、作ればいくらでもあるものらしい。委員になったからといって、なにも問題はでない。
 その日、学校に向かう足取りは軽かった。





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