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踏ミ出シタソノ足ハ

踏ミ出シタソノ足ハ<第一話>

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【1】

 かぶり慣れないキャップを頭にのせて、川沿いのサイクリングロードをぶらぶらと歩く。横目に見る山は、濃い緑に覆われていて、今が初夏であることを改めて実感する。
 こんな平日の明るい時間に、散歩をしている女子は珍しい。通り過ぎるのは、小さな子どもか、それともある程度年をとった大人だけだ。
 十分ほど歩いて、そのまま土手の草に腰掛けて、山を見つめる。
 少年特有の、甲高い声が後ろから聞こえ、そのまま通りすぎていく。それが、否応なしに今日の学校であったことを私に思い出させた。
 ――『勉強、かったりぃ!』
 昼休み。そう叫んだやつがいた。名前はそもそも覚えていない。ただ、私よりも小さな男子だった。その時点で、「チビ」と呼び名を自分の中で決める。
 勉強がダルイなんて、日常的にみんな言っていることだ。いまさら聞いても目新しさも何もない。しかし、なぜだかその声は私の耳に入ってきた。どこかで聞いたことがあるような声だったからかもしれない。
 ――『じゃあ、勉強せずにすることが何かあるのかよ』
 そのチビと一緒にいたほかの男子が、そう冗談めかしていった。チビは、肩を大仰にすくめてみせ、『いや、なにも』とひょうきんな声で答える。そして、続けて、
 ――『でも、絶対に見つけるよ』
 そう、自信のこもった声で言い放った。
 私はそれを、身じろぎもせずに聞いていた。自分ではそんなつもりはなかったのに、けっこう長い間、固まっていたらしく、友だちに「なんで、石になってんのよ」と呆れ顔で笑われ、なぜかデコピンを食らうことになった。
 私は、デコピンを食らいながらも目でチビを追っていた。
 なぜだか、どう見てもダメ人間にしか見えない彼が、私には輝いて見えた。何も出来ない私も、彼のようになれば変わっていけるのかもしれない。そう、心のなかで思った。
 私は一応、過不足ない人間としてクラスの中では通っている。確かに勉強もなにも遅れているつもりはない。でもそれは、なにもやりたいことが他にないからだ。
 しかしそんな私は、彼に憧れを抱いてしまったのだった。
 思い出してみると、実におかしなことだった。なぜ、そんな感情を抱いてしまったのか、分からなかった。だいたい、私に彼みたいになれるわけはないし、なりたいとも思わない。今のままで十分に満足しているのだ。やりたいことがない私みたいな人間に、勉強しない理由はない。このまま勉強して、そのまま進学して……それでなんの不満もない。
 しかし、これ以上深く考えることを拒否して、私は立ち上がった。そのままうーんと伸びをして、空を見上げる。山際から湧き上がる入道雲と、眩しい太陽、真っ青な空はやっぱり綺麗だった。
 アップビートの曲を口ずさみながら、リズミカルに帰路につく。家に帰ったら、今日の復習と明日の予習、それに宿題が待っている。それを楽しみとも、面倒だとも考えず、私はそれをどうやって効率良く終わらせるのか、ということだけに意識を向けて家へと向かった。

 高校三年生にもなると、当然のようにみんなこれからのことを考えている。志望校なんかも決めて、それに向けて勉強中だ。
 クラスには一部、専門的な方面に進む人もいるらしい。
 そんな人も含めて共通していることは、みんな「将来を見据えている」ということだった。
 そんな中、ほとんどなにも考えずに勉強している人間は、私以外にどれくらいいるだろうか。ただ、人生の目標が定められず、勉強した先に何かがあるのではないかとぼんやりとした希望を持ち、惰性のように毎晩机に向かっている。そんな人が。
 深く考えたくなかった。
 このまま流れに従っていけば、なるようになるはずだ。
 ――でも、このままじゃいけない。こんな自分から変わりたい。
 心の底で小さな声があがる。けれど私は、その声をさらに奥へと押さえ込んだ。これは、単なる美しく飾り立てられた理想だ。そして、このまま流れにのって行きたい、そう思っているのが本当の私だ。理想は捨てて現実を見なければいけない。

 ただなにも考えず、ノートに要点をまとめていく。
 時計を見ると十二時だった。
 今日はここで止めておこう。鉛筆を放り出して、思いっきり伸びをする。そして、今日やった分のノートを見なおした。ずいぶんと多い。
「よし、今日も頑張った」
 自分にねぎらいの言葉をかける。そして、満足感に浸りながら、眠りにつく――はずだった。しかし、その時また昼間に聞いたチビの言葉が耳の中でこだました。
 ――『いや、なにも。でも、絶対に見つけるよ』
 自信に満ちた声だった。
 私も、あんな風に言えるようになりたい、そんな想いが自然と心のなかに湧き上がった。同時に『変わりたい』その声が、心のなかに蘇る。
「違う!」
 思わず、声に出していた。
 ――私は、変わりたくない。
 このままがいいのだ。このまま、流れに乗って、そうして生きていきたい。
 しかし、心の声は止まなかった。『変わりたい』そう繰り返し続ける。
 ――『変わりたい』
 ――『変わりたくない』
 どちらが、理想で、現実で、本当に私の思っていることなのか分からなかった。タンスの上で眠っていたラジオの電源を入れる。だんだんと頭の中を覆い尽くしていくその二つの単語を、私はこれ以上聞きたくなかった。
 昔、夜更かしをして聞いた番組の懐かしいジングルが流れだした。意識を、番組の方へと切り替える。
 好きなタレントが、いつのまにかパーソナリティーに変わっていた。テレビとは違う声がラジオで流れていく。それを聞きながら、着替え、そのまま布団に入る。
 結局その晩は、ラジオをつけたまま、私は眠りについた。






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