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即興小説(掌編、散文)《随時UP》

七秒戦記

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いつだったか、後輩に突然つきつけられたお題。

『7秒戦記 ~6.5病からのキセキ~』

脅されて書きました。





『七秒戦記~6.5秒からのキセキ』



 街角の小さなカフェに入ると、開け放たれた窓から突然強まった雨の音が聞こえてきた。
 窓際の二人席を陣取り、そこから外を眺める。窓から手を伸ばせば触れられそうな、小さな照葉樹の葉が容赦なく叩きつける雨粒を必死で受け流していた。
 ふと、その葉の隙間から、表通りが見えた。
 目を細めてそこを眺めていると、突然の雨足に急いで走っていく人の姿がちらほら見える。――そんな中で、一人。雨に濡れながらもまるで足を速めようとしない人影があった。
 それは、彼だった。
 彼が通り過ぎた後もぼおっとその通りを眺めていると、やがて、カフェのドアに取り付けられたベルが控えめに鳴った。
「やぁ」
 頭からしずくをたらしながら目の前に座った彼に、私は用意していたハンカチを手渡した。
「いいよ、別に」
 彼はそう言って、背負っていたリュックからタオルを取り出して、ごしごしと頭をぬぐう。ときおり滴が飛んできた。けれど目はそむけなかった。
 彼はそれに気いたのか、手を止めた。
「もしかして、怒ってる?」
「うん」
 正直に答えると、彼は少し視線をそらして、そうか、と言った。
「でも、こんなんじゃ風邪なんかひかないから大丈夫だって。心配してくれなくても」
「別に、それじゃなく」
 勘違いも甚だしい。
「え、じゃあ、なに?」
 心底驚いた様子でこちらを見つめる彼に、私は一つため息をついて言ってやった。
「遅れたでしょ」
 一瞬の沈黙。
 そのあと、彼が「ああ!」と大げさに手を打って、また手を動かし始め。
「ふぉめん」
 タオルに覆われた顔の、口と思しき部位からそんな声が発せられる。ゴメン、と言おうとしたのだと勝手に解釈して、私は小さくうなずいた。

「改めて、久しぶり」
 濡れたタオルを意外にも綺麗に畳み、リュックの中に仕舞い込むと彼がおどけたように言った。
「久しぶり」
「何年ぶりかな?」
 聞かれて、軽く計算してみると、もう三年もたっていた。
 高校一年生の時以来だ。
「へぇ、三年か」
 長いなぁ、と常套句を口にしてから、彼がぐっと身を乗り出してきた。それに合わせて、私はぐっと後ろに反る。おかげで距離感は、最初と変わらない。
「どうして、避けるの?」
 彼が首をかしげた。
「なんで、避けないと思うの?」
「うーん……」
 ちょっと不思議な答えを返すと、彼は本気で考え込んでいるようだった。
「って、分かるわけねぇじゃん。俺がミステリーとか苦手なの知ってるだろ?」
「いや、ミステリーとかではなく」
 常識で……と言いかけたところで、彼がすっと身を引いた。言葉を飲み込み、私も姿勢を戻す。正直なところを言うと、腰が少しヤバかったので助かった。
「普通、三年間会ってない友達にいきなり呼び出されたら、用件を聞くまで信用できないよ」
 助けてもらったお礼に、答えを教えてあげた。
「ああ、そういや、用件言ってなかったっけ?」
「うん、言ってない」
 とぼける彼に、しれっと一言返す。
「そうか……」
 彼は濡れて少しツンツンとした短めの髪を、軽く搔きながら視線を斜め下に逃がした。そこからさらに、右に左にとさまよっている。
「さっさとお願い」
 じらされるのは嫌いだ。
 手でテーブルとトントンとたたいてやると、彼は仕方なく顔をあげた。頬に少し赤みがさしているのは、雨で冷えた皮膚に温度が戻ってきたからか、それとも――。
「分かった。これはお前にしか相談できないことなんだけど」
 いきなりお前呼ばわりだが、それはぐっとこらえる。
 そして、彼がこちらの目を射抜いた。
「今度、告白したいんだけど、相談に乗ってくれないかな?」
 本日二回目の沈黙ののち、私の口から洩れたのは、
「はぁ?」
 という言葉とも音とのつかないようなものだった。

「その……帰っていい?」
「ダメ、――っていうか奢るから、頼むって」
 手を合わせて情けなく頭を下げる彼に、私は浮かしかけた腰をもう一度席に戻した。
「それで、なんで私に?」
 心の中には、怒りとも呆れともとれるような不思議な感情が湧きあがっている。
「だって、俺の知っている限りで、告白なんて大イベントしたことあるのお前だけだもん」
 気持ち悪い語尾にツッコミ入れず、しかし後半にはツッコまざるを得ない。
 なんだ「大イベント」って。
「ほかに、もっといい知り合いがいるんじゃない?」
 いくらなんでも、私というチョイスは間違っているだろう。
 うん、絶対。
「いないんだよ、マジで。頼むって! この通り」
 ついには土下座でも始めようかという勢いの彼に、私はため息をついて天井を見上げた。いつのまにか心の中にあった怒りは、ほとんど呆れで押し流されている。
 ――どうしてこんなことに。
 私だって、告白なんか一度しかしたことがないのに。
 その時は振ったくせに、このヤロー。
「いろいろと、ホントにいろいろと言いたいことはあるけどその中から一つだけ」
「なに?」
 能天気な声が返ってくる。ホントに、こいつの頭の中には何が詰まってるんだろうか。

「バーカ」
 


 馬鹿だとは思っていたけれど、ここまでとは想像もつかなかった。
 確かに出会ったときから信じられないほど世間知らずで、結局高校も一年でやめてしまった奴だってけれど、それ以来本当に生きてきたのだということがよーく分かる。
「この自由人」
 小さくののしる。
「え、なに?」
「なんでもないけど」
 それより、と言葉をつないだ。
「相手は?」
「知り合い」
「そりゃそうだろうけど、もっと詳しく」
 めんどくさそうに問い詰めてやると、彼は口の端を少し曲げた。
「ちょっと、恥ずかしくて言えない」
「なんで!」
「なんでも」
 間髪入れずに返ってきた返事に思わず、イラっとしてしまう。
「あ、そう。じゃあ帰るけど」
 椅子の肩にかけた傘に手をかけると、
「昔からの知り合い!!」
 少し詳細な答えが、あわてて飛んできた。
「もう一声!」
「いま、大学生!」
「ふむ……」
 腕組みして、それっぽく頭をひねってから、
「それで、相手にはどーゆー風に思われてんの?」
 核心をついてみた。
「結構脈ありだと思う」
「お、自信ありますねぇ」
 彼から「脈あり」という言葉が出てきたことにビックリした。
「うん」
 彼が、またわずかに視線をそらしながら言う。
「なんか、大切なゼミがあるとか言ってたのに、それでも文句言わずに用事に付き合ってくれるしさ」
「ほほお、それでそれで?」
「少しくらい遅れても、なんだかんだで許してくれるし」
「へぇ……いい感じじゃん」
 思ったより、いい人だ。まるで私みたいに。
 突然親近感が湧いてくる。
 さて、何を言うべきかと思い、ふとこの前読んだ面接のためのテクニック本を思い出した。
「じゃあ、一つアドバイス」
 偉そうな声で言うと、彼が大仰に頭を下げた。
「重要なのは、ファーストインプレッション」
「ははあ、でもそれって、この場合はあまり意味がないんじゃ……ってか全然意味がないんじゃない?」
「それがそうじゃないんだなぁ」
 確かに、私も本を読んだときそう思った。
「初めて出会った、っていう時のファーストインプレッションも大切だけど、それと同じくらい告白みたいな大事な話をするとき、その日のファーストインプレッションは重要なんだって。どこかで読んだけど。特に、出会ってからの七秒間で印象は決まるらしいよ。それこそ、出会うときは0.5秒刻みでの細かい意識が必要なわけで――」
 そうやって話していくうちにだんだんと話がエスカレートして、いつのまにか最初の0.5秒で失敗した場合そのあとの6.5秒でどうやって挽回するのか、という話になっていた。
 もちろん、そんなことは本には書いていない。
 調子に乗ってきてさらに言いつのろうとする私を、彼が手を挙げて制した。
「つまり、失敗を挽回するためには、たった6.5秒しかないってこと?」
「そゆこと」
 軽く答えながら、少し心が痛かった。 
 彼が腕を組んだ。
 いつのまにか、窓の外からは涼やかな初夏の風が吹き込んできている。雨は止んでいた。
「分かった」
 彼が唐突に言って、立ち上がった。
「え?」
 聞き返した私には答えず、彼はリュックを背負いこちらを見下ろす。
「出直してくる」
「え?」
 まったく同じ言葉を繰り返した私に、彼は小さく言った。

「もう、6.5秒は、とっくに過ぎちゃってるからさ」


 
 
【完】
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