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週一短編企画

《第一回》『タイトル未定』――(4)

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〈4〉 


 橋を渡って神宮内に入っていくと、空が狭くなった。
 大木が我先にと枝を伸ばしているせいだ。その隙間から、済んだ冬の空に浮かぶ、微妙な形の月が見えた。
 その月に照らされた空間には、心が研ぎ澄まされるような不思議な空気が満ちている。
 家の近くにある神社に、ヤツと二人でいった時のことを思い出した。せっかくだから騒いでやろうとでかけたのに、なぜかはいった瞬間に二人とも黙りこんでしまい、結局律儀にお参りをして帰ってきたのだった。
 そのときにぼく達が黙りこんでしまった、あの空気。それを何百倍にも増幅したものがここにあった。
 踏み出した足の下で、砂利が小さな音を立てる。
 奥へ進んでいくと、道の側で小さなたき火がいくつか焚かれていた。そこの周りにも人が集まり、同じようにモチを焼いている。確かにあの巨大なものよりも、こちらのほうが焼きやすいに違いない。
 納得しつつやがてそのたき火をも通り過ぎると、灯りはどんどんと少なくなった。だが、まぶしすぎるほどの月光が、地面を青白く照らしていた。
 暗闇の中に暖かい光を灯して浮かび上がる札売り所を過ぎると、その先はもう別空間だった黒々とした巨木の幹が月明かりを反射している。道の両側にある森はますます深く、その奥にあるなにかを感じさせた。
 まるで、他の場所とは空間の、時間の濃度がちがうように、ぼくには感じられた。ヤツのいっていたパワースポットとかいうのも、あながち嘘ではないような気が少しした。
 ぼくは、周りが先に進むのに逆らって、しばらくそこに立ち尽くしていた。
 まわりの人の話し声は、周りの木立の中に吸い込まれていく。静かだった。ただここに自分と世界しかないような、そんな錯覚を覚えた。 
 そうしているうちに、小さな事にいつまでもこだわっている自分が、滑稽に思えてきた。いや、正確には自分のこだわっていたことが、ほんの小さな事だと悟った。いや、もっというと、ぼくは前からそのことはわかっていたのだろう。ただ、それを受け入れることができなかっただけで。
 夜の神宮が持つ清澄な空気は、そっと、心につっかえていたものを、溶かしさっていた。
 本殿に着くと、後から後から押し寄せてくる人に気圧されながら五円玉を放り、良い一年になりますように、と手を合わせた。
 そのまま人の流れに押し流されてそこを去り、もう少しマシなことを考えておけばよかったと後悔した。

 ゆっくりと歩いて広場に戻った時、すでに腕時計は十時過ぎを示していた。
 慌てて二人の姿を探すと、先に見つけられていたようで「よう、ちょうど良い感じで焼けてるぜ」
 とじいさんが手をあげてぼくを呼んだ。
 それから、口に手を当て、外見からは考えられないような大きな声で、呼ばわる。
「おおい、モチが焼けたぞ!」
 その瞬間、周りで遊び回っていた子供たちが十数人、一斉に集まってきた。その光景はさながら、公園で鳩に餌を巻いているかのようだ。その様子に圧倒されながらも、僕はその一員に加わるべく、足で地面を蹴った。
 空腹はすでに限界を越えていた。
 何もつけずにモチを食べるのは初めてだったが、そんなことも気にならなかった。もう一度お礼をいってから、かぶりつく。
 歯の先に、硬くて冷たいものがぶち当たった。
「なにがいい感じで焼けてる、なんですか!」
 明かに、真ん中まで火が通っていなかった。
 じいさんは、おかしいな、とでもいうように自分の手に持ったモチをかじり、
「俺のは大丈夫だけどなぁ」
 という。
 子供たちを見渡すと、口々に大丈夫といった。どうやら、ぼくのモチだけ半焼のようだ。
「もういいです。自分で焼きますから」
「ほお、焼けるのか?」
 じいさんがニヤリと笑う。
「焼けますよ、すくなくとも食べられるくらいには」
 ぼくもニヤリと笑い返した。
「うん、良い表情だ」
「そうですか?」
「御参りに出かけていった時とは、大違いだぜ。あのときはひどかった」
「あ、はは」
 どう反応していいか分からずに、ぼくは曖昧に笑った。
 あんなにもむしゃくしゃした気分で出かけたのに、たかが数十分でこんなにも気分を変えさせられてしまった自分が、なぜか情けなく感じた。
 じいさんは、コートの内ポケットから、いつのまにかきれいに伸ばしたあの封筒を取り出した。
「で、どうする」
「分かりません」
「……分からない?」
「お参りしてちょっと変わったというか、なんというか……その、ずっと引っかかってたわだかまりが解けたというか、まぁ、そんな感じなんです。手紙は捨てたくありません。でも渡せもしない。それで、どうしようかと思って――」
「出さねぇの?」
「え?」
 またもや、あの少年が首を突き出していた。
「手紙って出すものじゃん?」
 そうか。
 ――そうだ。
 単純なことを忘れていた。手紙は、出せばいいんだ。ぼくは笑ってしまった。周りの子供たちに気持ち悪がられても、そのまま笑い続けた。
 自分で勝手に囚われていたことから勝手に開放された、不思議な笑いだった。

  案内を頼んで、一番近いというポストに手紙を投函しに行った。途中で、宛名を書く。手帳にずっとメモしてあったヤツの住所がこんなところで役に立った。
 ポストにそれを投稿した瞬間、ようやく一つのことが終わったのだな、と思い思わず天を仰いだ。そこには、愛も変わらない微妙な形の月が居座っている。正月にはふさわしくないけれど、今の僕にはぴったりの形だった。
 広場に帰ってくるとすでに十一時を回っている。入口には、じいさんと他の子供たちが集まっていた。
「これから、内宮に初詣にいくが、どうする?」
 じいさんがいった。
「いきます」
「一時間ほど歩くが、いいな?」
 もちろん、そううなずくと、じいさんはニヤッと笑って、親指を立てた。
 さぁ行くぞ、と爺さんが声をかけると、賑やかな集団一斉に出発する。
 そうして僕たちは、新しい年へ向かって出発した。
 
* * *

 新しい年が明けて、三日目。 
 コタツの住人に復帰したぼくの元へ、見慣れた文字の年賀状が届いた。
 ヤツからのものだった。
 来ないわけはないと思いつつも、もしかして来なかったらとも何度も考えた。それに、あの手紙にぼくが何を書いていたのか、それも問題だった。
 かすかな記憶によると、ぼくはヤツのことを罵倒しながら書いたような覚えがあるのだ。
 急いで裏返すと、そこには、汚い文字で「あけましておめでとう、ことしもヨロシク」と書かれていた。
 今年くらい漢字で書けよ、と心のなかでつっこんだ。
 大量の葉書を分類していると、その下から一通の封筒が現れた。これもぼく宛のもので、宛名の文字はやはりヤツのものだった。
 黄色い縦長の封筒だ。
 封を切って中身を取り出すと、二枚重ねで二つ折りにしてあるそれを開いた。
 一枚目には大きく、

 『果たし状』

 と、書かれていた。
 本当にあの手紙に何を書いていたのだろうと、ぼくは大きくため息をついた。
 果し合いをするときにでも聞くとしよう。
 それがいい。



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