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週一短編企画

《第一回》『タイトル未定』――(2)

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〈2〉 

 
 早めの晩ごはんを食べて、ゆっくりと支度をして出るつもりだった。しかし思わぬ伏兵が、僕の完璧なスケジュールを脅かした。
 家の時計が遅れていたのだ。
 慌てて二階へ駆け上がり、それまでずっと開けていなかった三番目の引き出しの中から手紙をひっつかんで、家を飛び出した。最寄り駅から出る電車に飛び乗ったのは十八時だった。
 ずっとコタツに依存する生活を送っていたせいか、立ち上がるとわずかに頭がくらくらして、行動もいちいち緩慢になる。ノロノロと人のほとんどいない車内でロングシートに腰掛けたぼくは、気づけば眠りに落ちていた。
 起きた時、路線を乗り換える予定の駅を通りすぎていなかったのは、単に運が良かったという他ない。それはぼくがはじめに乗った電車が鈍行で、途中で急行に乗り換える予定だったにもかかわらず眠ってしまっていたからだった。
 しかし、そのせいですでに時刻は十九時を回り、外はすでに真っ暗だ。いつのまにか僕の座っている周りにはたくさんの人がひしめき合っている。
 やがて電車が目的の駅に着くと、重い体を起こしでのそのそと電車を降りた。少し高いところにあるその駅のホームからは、塀越しにビルやその壁面に光るネオンが見て取れた。
 冷え込んだ風が吹き抜け、ぼくの身体を凍えさせていく。物凄い寒気に襲われ、ぼくは慌てて腰に巻いていた黒いダウンを羽織った。この様子ではこれからなお冷え込みそうだと思った。
 階段口にある表示に従って、ホームを変えるとしばらくして電車が滑りこんできた。これまで乗ってきたような対面式のロングシートしかない通勤電車と違い、ボックス席だった。
 人が少ないのを幸いに、四人乗りのその一角を占領し、外の景色に目をやる。
 ビルや家の立ち並んでいた風景はすぐに消え去り、車窓からの景色はどんどんと、暗い田舎に変わっていった。路線は単線に変わり、乗っている電車は快速にもかかわらず、すべての駅に停車した。
 大晦日に、世界に名だたる伊勢神宮へ向かう電車だ。
 ものすごい人だろうと想像していたのに、実際はほとんど人はいなかった。ぼくのいる車両には十人ほどしかいない。家族連れと、大学生のサークルかなにかの一団だ。彼らの楽しそうに話す声が、否が応でも耳に届いた。
 ふいに景色が完全に真っ暗になった。電車がトンネルにはいったのだ。
 その瞬間、ぼくはどうしようもない孤独感に襲われた。
 ぼくはたった一人で、いったこともない伊勢神宮に向かおうとしていた。
 ついこの前までいつでも一緒だったヤツは、もういなかった。
 ポケットの中には、出せなかった手紙が入っていた。
 それらのことはぼくを、まるで世界から隔離しているかのように、孤独にさせた
 冷たい電車の窓に頬をつけて、再び真っ暗な外の景色を見つめる。
 さきほど見た腕時計の針は、二十時半を差していたのを思い出す。事前に調べた乗り換え案内では、到着は二十一時半となっていた。
 あと一時間ほどで、伊勢駅に着く。
 その一時間がやけに、長いように感じられ、ぼくはシートからずり落ちそうなほどに深く身を沈めた。
 突然、外の景色がパッと白くなった。トンネルを出ると、そこでは雪が降っていた。
 雪国に住んでいる人からすると、なんでもないのかもしれないが、ぼくにとってそれは吹雪としか表現のしようがないものだった。
 その中を電車は切り裂くように走っていく。
 見慣れない景色すらも真っ白に塗りつぶされ、それがぼくをますます孤独にさせた。
 そうして伊勢駅にたどり着いた時、ぼくの心はすでに冷え切っていた。なのに、身体だけは電車の暖房に暖められていて、まるで心と体が切り離されたように感じた。
 古ぼけた駅舎を出て、意外と小さいロータリーに出る。
 通ってきた山間部ではあれだけ積もっていた雪も、こちらではすでに降り止みうっすらと道路の上に痕跡が残るだけだ。
 駅前のもう使われていないデパートが、大晦日の空の下で、やけに寂しそうに見えた。
 ――ぐぎゅう。
 閑散とした駅前の広場の空気の中で、まるで場違いな音がぼくのお腹から鳴り響いた。
 その音を聞いて、初めて、自分が空腹なのだということに気づいた。まずは空腹を癒そうと辺りを見渡すと、やけに賑わっている通りが目に入る。
 ぼくはそちらにむかってふらふらと歩いていった。







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