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週一短編企画

《第一回》『タイトル未定』――(1)

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〈1〉


 三年前のあのときのことを、ぼくは今でもかなり鮮明に思い出すことができる。
 中学一年の十月。
 日差しはずいぶんと弱くなったものの、いまだに日中は暑く感じる日の多い、そんな一日。学校からの帰り道のことだ。ぼくもヤツも半袖に半ズボンで、ヤツの頭にはその時にすでに古かった阪神のキャップが鎮座していた。
 さんざんふざけながら歩き、遠回りもしているうちにすっかり汗を書いてしまったぼくは、アイスを食べようぜ、と提案した。ちょうど近くにコンビニがあったのだ。
 ところが、ヤツはその先にあるカフェで、抹茶パフェを食べようと言い出した。
 当然嫌だとぼくは答えた。
 一応学校の帰りということもあって、そんなところを誰かに見られでもしたら、最悪だったからだ。それに、パフェはぼくの財布事情から考えるととんでもなく高価だった。
「いいじゃん、こっそり奥のほうで食べればいいんだって」
 しかし、ヤツはやけに強引だった。
 散々誘ってくるので、ついにぼくは折れてそのカフェに入った。ヤツはなぜか得意げな顔でパフェを頼んだが、ぼくはジュースだけにした。そのジュース一杯でアイスが何本も買えたのにと思うと、あまり美味しくは感じられなかった。
 僕とヤツは結局そのカフェに長時間居座っていた。ヤツは最近ハマっているというUMAやUFOなどのことを興奮気味話し、そういえば、オレの実家の近くにある伊勢神宮もパワースポットとして有名なんだってさ、と自慢げにいった。 ――パワースポットとかバカらしいし、その中心地なんかなおさらだ、と僕がいうと、ヤツは少し悲しそうな顔をした。
 事件は次の日に起こった。
 ちょうどその時の様子を見ていた大人がいたらしく、先生に通報されたのだ。ぼくたちは先生たちから厳重にお叱りを受け、家でも怒られた上に、お小遣いは一ヶ月もらえないと言い渡された。
「違うんだって、ぼくはやめておこうっていったんだ。でも、アイツが……」
 ぼくは必死で抗議をしたが、まるで相手にされず、怒りの矛先はヤツのほうへと向いた。さらに次の日、ぼくはヤツに怒りをぶちまけた。 
 ――なんてことをしてくれるんだ、お前のせいでひどいことになった、どうしてくれるんだ。
 ヤツは、何も言わずに聞いていた。
「なにか言えよ」というと、
「……お前も賛成したじゃん」と仏頂面でぼそりと答える。その時のやつの顔は、まるで能面のようでなにかの感情を押し殺しているように見えた。
「それは、お前がしつこく誘ったからで」
「連帯責任だって」
 ヤツはいった。
 今思えば、笑い出してしまいそうな会話だが、この時はお互いに必死だった。
 その先は大ゲンカになった。徹底的にお互いをなじり合って、ぼくたちは別れた。あんなヤツ、もう口も聞いてやらねぇ、友だちでもなんでもねぇ、とそう思った。
 ヤツが二週間後に転校することを聞いたのは、そのさらに次の日だった。

 どうしていってくれなかったんだよ、とはいえなかった。
 ちっぽけな、でも中学生なりのぼくの意地がそれを邪魔していた。それに、ヤツの周りには転校すると聞いたときから人が集まっていて、到底声をかけられる状態ではなかった。
 そうして数日が立ち、クラスで開かれたヤツのお別れ会に、ぼくは欠席した。とてもじゃないけれど、それに出てヤツにお別れの手紙などを渡す気にはなれなかったし、皆と一緒に涙をながす気にはなおさらならなかった。
 仮病を使って寝ていると、どうしてもヤツの顔がふわふわと浮かんできて、頭を離れなくなった。楽しそうな顔、いじけている顔、悲しそうなの顔、目まぐるしく変わる表情が、ぼくの頭の中を舞った。
 否応なしにヤツとの日々を思い出し、ぼくは突然申し訳なくなった。
 けれど、途中からお別れ会に突入する勇気もなく、しかたがないので、手紙を書くことにした。  
『拝啓このバカヤロウ……』
 そこまで書きかけて、消す。
「バカヤロウじゃなくて、コノヤロウかな」
 本当にどうでもいいことで、ずいぶんと悩んでいた。
 別れの手紙などどう書けばいいのか分からず、病気で寝ているという手前上お母さんに聞くこともできなかったので、もう思いついたことを書くことにする。すると、ただの愚痴になった。お前はこうだ、ああだ、お前のせいでいつもひどい目にあった、最悪だった、自分でもよくこんな言葉が最後に出てくるな、と思うほどの悪口を並べ立てて、それも消した。
『この前はゴメン……』
 今度は謝ってみる。
 するとスムーズにいった。そのままどんどんと書き連ねる。しかし、今度は気分が悪くなってきた。なぜ、ぼくが謝らないといけないのか。そもそも今回の喧嘩にしても、全面的にヤツが悪いのに、一言も謝ってもこない。
 書きながらムカムカしてきて、その紙はくしゃくしゃにして捨てた。
 完全に頭に血が上って、意識が朦朧としていた。
 その先は、何を書いていたのかあまり覚えていない。熱に任せて書きなぐり、見直しもせずに封筒に入れた。本当に風邪を引いたかのように、頭がガンガンとして、ぼくはそのままベッドに倒れ込んだ。
  ――夜。
 部屋におかゆを運んできたお母さんが、ヤツが持ってきてくれたのだと、数枚のプリントを渡してきた。その中には、ヤツからクラスメイトへの手紙というものもあって、そこには引越し先の住所も書かれている。
 ヤツの出発二日前の晩のことだった。

 次の日、学校は休みだった。
 起きた瞬間、ヤツのところにいこうと思った。手紙には出発の当日は朝早くに出ると書かれていて、おそらくヤツと会えるのは、最後だったからだ。
 つまらない意地は捨てて、仲直りをしたいと思った。
 そしてぼくは、机の上から昨日書いた手紙をひっつかみ、ヤツの家へと向かった。
 一週間見ていなかっただけで、ヤツの家は様変わりしていた。見慣れたカーテンは取られ、塀越しに見える家の中はダンボールだらけだった。
 外で借りてきたらしい大きなトラックに、荷物を積み込もうとしているヤツの父さんが、「おや来てくれたいのかい」といったので、軽く頭を下げてそれからヤツを探した。
 黄色と白のキャップが、視界の端に映った。ヤツは隣の通りで、誰かと話していた。
 ――誰か?
 目に写ったその「誰か」が信じられず、一度目をこすってから見たけれど、その姿は変わらなかった。
 クラスで一番モテていることで有名な、Rだった。
 実は、ぼくも一度告白したことがある。外見だけでなく内面も良い、男子だけではなく女子にも人気の、典型的な良いヤツだ。その時に書いた出せなかったラブレターは、まだ住所も宛名も書けないまま、机の三番目の引き出しの中に仕舞い込んである。それ以来、その引き出しは封印されたままだ。
 なんで、Rがこんなところに……という野暮な考えは、聞こえてきた言葉でかき消された。
 なんてことだ。
 Rが告白していた。
 あのとき、まだ恋愛とか全然わからないから、という理由で振られ、それを信じたぼくがバカだったということだろう。
 しかし、なによりムカついたのが、ヤツの締りのないにやけた顔だった。怒りが限度を越した。
 ヤツなんか、もう一生友達ではない。
 電信柱の後ろに隠れて怒りを噛み殺すぼくに気づきもせず、そのあと二人はしばらく、良い感じの空気をつくり続けていた。
 ぼくはついに見ているのが耐えられなくなり、二人に背中を向けた。
 心のなかは、怒りにも悲しみにも似た感情が渦まいていていた。多分ぼくは、本当に勝手なことだけれど、傷ついていた。
 家に帰ると、手紙を机の三番目の引き出しの中に放り込んで、ベッドに倒れた。 
 案外すぐに、眠りにつくことが出来た。
 そして起きた時、今度こそヤツは、この町にはいなかった。

 それからの二ヶ月は、ゆっくりと過ぎた。
 ゆっくりだったくせに、その間に自分が何をしたのかも覚えていないほど、中身がなかった。ヤツに手紙を渡せなかったあのときから、ぼくの中での時間は、どこか新鮮さを失っていた。 
 ヤツのことは忘れようと努めた。
 しかし、燃え上がっていた怒りが時間とともに収まった後、そうして忘れようとしている時間が、ぼくの一日の中での大部分を占めるようになった。結局のところそれは、ヤツのことを一日中考えているのと大差なかった。
 手紙を捨てようとも何度も思った。
 けれどもそれをいまだに実行するどころか引き出しを開けることすらできないのは、ぼくの中にまだ、ヤツと仲直りしたいという気持ちが残っていたからだろう。事実、ぼくはヤツと遊ぶのを渇望していた。 
 小学生五年の時につくってそれ以来きれいなままで保ってきた、学校の裏山にある秘密基地や、河原で飛ばしたペットボトルロケット。
 川の中に橋から飛び込んだり、河原のアシの原を冒険しにいって迷ったり、市内の一番高い木に登ろうとして、最初のあたりで落ちて骨折したこと。そんなバカを、もう一度したかった。
 あれから二ヶ月。ぼくはまだ、ヤツの代わりになる友達を、見つけられていなかった。

「ねぇ、今年はどうする?」
 年末も年末。今年もあと二日で終わろうとしている一日のことだ。すっかりコタツの住人と化したぼくに、お母さんがそういった。
「う……ん? いつも通りで」
 そのときぼくはテキトーに返事をして、そのままその会話は終わった。
 問題は次の日だ。
 朝から、年末恒例の家族で帰省をする準備をしていた母さんが、ふと気づいたようにいった。
「そういえば、いつも通りってどうするの?」
 どうするって?
 そう言われてはっと気づいた。
 家族の年末年始の過ごし方は決まっている。ぼく以外の家族は全員、けっこう近くに住んでいる父方の実家に大晦日に帰省し、そのまま年を越す。ぼくは大抵、家に残り、ヤツと一緒に家の近くの神社で初詣をして、それから遊びまくって年を越す。
 しかし、そういえば今年はヤツがいないのだ。
「どうする? 一緒に来る?」
 考え込んでいるぼくに、お母さんがもう一度聞いた。
 どうしようか。こうなったら、一緒に帰省してしまうのも一つかもしれない。
 けれど、僕の中にはまだ一つ、引っかかっていたものがあった。ヤツのことだ。このまま何もせずに年を越してしまったら、もうどうしようもないような気がしていた。
 その時、ふと伊勢神宮のことを思い出した。
 実家がその近くだというヤツは、もしかしたら年末、そこに来ているかもしれない。いや、あれだけ好きだと言っていたのだ、来ていないはずがない。
 その時頭に浮かんだ計画は、荒唐無稽と言う他ないものだった。
 ――伊勢神宮にいって、ヤツに会ったら手紙を渡す。会えなかったら手紙を捨てて、忘れる。 
 なかばクジのような、そんな計画だった。
 それでもぼくは、心のなかにたまっていく感情をどうにかしたかった。
「ぼく、伊勢神宮に行ってくる」
「え?」
 意味がわからないとでも言うように、お母さんが聞き返す。
「だから、伊勢神宮!」
「ふうん、誰と?」
 そう聞かれて、とっさにヤツとだと嘘をついた。向こうで待ち合わせをしているのだと。これまで年末を二人で過ごすのはよくあったことだったので、お母さんはそれ以上何も言わなかった。
 そうして僕は、年末を伊勢神宮で過ごすことになったのだった。






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