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特別小説

大人の階段のぼるには〈5〉

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          ◇◆◇

 その小さな小屋の中で、僕達三人は五年ぶりに再会したムックじいさんと向かい合っていた。
「な、なんでこんなところにいるんですか……?」
 疑問しか湧いてこない。
 ムックじいさんは、目玉をギョロリとさせて、ひょうきんな声で答えた。
「いや、ひさしぶりにこっちに来てみたんじゃが……途中で道に迷ってノォ、ここ数日森の中をさまよってたんじゃ」
 相変わらずの適当さだ。だが、納得してしまう。
「え、オオカミ大丈夫だったんですか?」
 それを聞いて小さくリンカが呟いたけれど、それはムックじいさんには聞こえなかったようだった。
「すると、ちょうどいい小屋があるじゃないか。そりゃ腰を休めるしかあるまい。まぁ、それより、君たちこそそんな格好をして」
 じいさんは、目をすぼめてこちらを見渡した。
「まるで、テント……」
「その先は言わないで下さい。十分わかってるんで」
 伝統なんざクソ喰らえ! ――本日二回目。
 聞き飽きたその言葉をさえぎり、ふと小屋の中を見渡した。質素な小屋だ。中にはムックじいさんの大きな荷物以外には、一つのテーブルが置かれているだけで、そこにはたくさんの札がつまれている。
「これってもしかして……」
 エドガーが、その一番上の札を摘みとった。
 ――一番、と書かれている。
 これは、もしかしなくても、森戦の目的地の小屋に違いない。それにしても、まだ一番が残っているということは――、
「僕達が最初?」
 言葉が口から漏れる。そして、僕達は三人で顔を見合わせた。
「どういうこと?」
 リンカが怪訝そうに言う。エドガーがお手上げだとでも言わんばかりに肩をすくめた。
「どうもこうも、一番最初についてしまった、ってことなんじゃねえか?」
「でも変よね。私達、あれだけ寄り道してきたのに、なんでここに来て一位なのよ」
「何かあったんじゃね?」
 そんな問答が繰り広げられる。それを聞きながら、僕はじっと考えていた。
 この時間になっても、誰もたどり着いていないという事態。
 なにかが起こったという可能性。
 起こりえる何か――全員が足止めを食らうような出来事が……あった!
「オオカミだ!」
 僕達を追いかけていたオオカミが、ほかの人達を襲いにいっていたとしたら? 今頃大騒ぎになっているに違いない。大人たちがいるので大丈夫だろうけど、でも、僕達がいないという事実はまた問題になる。
「それだ!」
「そうね!」
 リンカとエドガーが瞬間的に反応する。
「ムックじいさん、僕達、急いで帰らないと……。オオカミが出て祭りが大混乱になっているんです」
「そりゃあ、大変じゃな」
 じいさんはボーッとしている。そして、キノコのバスケットを預かっておこうか、と言った。
「ありがとう!」
 もうほとんど中身の入っていないそれを預ける。
「一応、札も貰っておこう」 
 エドガーがそう言って、札の山から、三枚取ってポケットに仕舞った。
「では、行ってきます」
 気を引き締め直して、ドアを開けようとした時だった。
 クゥン、という獣の鳴き声が、すぐ外でした。
 先ほどからまだ神経が過敏な状態が続いている僕達は、驚いて飛び退ってしまう。
「な、なんかいるんですけど!」
 リンカがしても仕方のない報告をじいさんにした。
 もしかしたら、オオカミがここまでやってきたのかもしれない。この小屋は大丈夫だろうか。まさか、中にまで入ってこれるはずもないけれど、万が一のことがあったら――。
 頭の中でぐるぐると回り出す思考。
 それを遮ったのは、ムックじいさんの呑気な一言だった。
「ああ、ニボシが帰ってきたんじゃろう」
『ニボシ?』
 その単語が、何を意味するのかが分からず、僕たちはオウム返しに尋ねる。
「ペットじゃよ、ペット。犬のニボシちゃん、いつもわしが連れていたのを覚えていないかね」
 言われて、ようやく思い出した。
「もしかして、あの可愛い子犬ちゃんですか? 元気だったんですね……」
 リンカが興奮したように言う。
 無類の動物好きでもあるのだが、家が食品店ゆえに、ペットを飼えないという苦渋を舐めてきたからこその興奮だろう。
「はい、お入り」
 そう言って、すっかり警戒を解いたリンカがドアを開ける。
 そこにキチンとおすわりをして待っていたかわいい子犬のニボシちゃん(←五年前基準)を見て、僕たちは思わず叫んだ。
「でっけぇ!!」とエドガー。
「子犬じゃない?」とリンカ。
「オオカミ!」と僕。
 昔小さくて可愛かったニボシちゃんは、いつのまにか巨大になっていたのだった。さながら、オオカミのように。
 左の後ろ足を痛めているらしく、それを引きずりながらこちらへと歩いていくる。そして、突然じゃれついてきた。最初の標的なエドガーだ。
「わ、わわわわ、わっ!」
 リンカとは対照的に動物が苦手なエドガーは、必死の面持ちで後ろに後退る。しかし、所詮は狭い小屋の中。すぐに壁に背中がつき、なすすべなく巨大化したニボシちゃんに、顔をなめられることになった。
「ねぇ……」
 それを見つめながら、リンカが言った。
「なんだか、とってもくだらないオチを思いついたんだけど、言っていいかな」
「奇遇だな、僕もちょうど、なんだかこの事件が解決したような気がしてたんだ」 
 初めて、リンカと心が通じあったような気がした。
 はぁ、とため息をついて、僕たちはムックじいさんに言った。自然と声は重なっていた。

『犬の放し飼いは、紛らわしいのでやめて下さい!』

 エドガーとニボシちゃんの交流を微笑ましく見守っていたムックじいさんは、何を言われたのか分からなかったかのように、
「へ?」
 と間の抜けた声で答えた。
 一件落着だった。

 つまり、こういうことだ。僕達が出会ったオオカミは、ただの巨大化したニボシちゃんで、追いかけられていたのではなくじゃれつかれていたのだ。
「まったく、とんだ目に遭ったよ……」
 ようやくニボシちゃんから逃れたエドガーが、苦笑いしならそう言った。今は、リンカが実に楽しそうに、ニボシちゃんとじゃれあっている。
「それにしてもさ」
 僕は腕を組んだ。
「あのとき、なんで僕たちはニボシちゃんから逃げおおせたんだろうな」
「さぁ、途中で足でも怪我したから、ちょっと鈍ったんじゃねぇか?」
「ああ、なるほど」
 それなら理屈はわかる。
 それにしても、何かを忘れているような気がするのはなんでだろうか。なにか、大事なことを失念しているような気がするのだ。
 そう言うと、
「うーん、なんだろうな」
 とエドガーは全く気にしないように言った。
 そのときだった、外から、人の話し声のようなものが聞こえた。そして、次の瞬間、ドアが押し開けられて狭い小屋の中に泥だらけの子供たちが大量に雪崩れ込んできた。
 森戦に参加している仲間たちだ。
 皆一様に身体が傷だらけで、色とりどりだった衣装は土で汚れている。頭から土の中に突っ込みでもしたかのような様子だった。
 あー、忘れていたのは、これかぁ。そう納得すると共に、なんだか色々とマズイ気がした。
「それじゃ、お先に……」 
 後の二人に目配せして、そそくさとその場を立ち去ろうとすると、泥だらけの一団の一人に、ぽんと肩に手を置かれた。振り払おうとしたが、すさまじい握力で肩を締め付けてくるので、そうもいかない。
「なぁ。なんか、言うことない?」
 にっこり笑ってそう質問され、僕はおっかなびっくり答えた。
「お疲れ様。 そんなにキツかったのか? 試練」
 出来るかぎり無難な言葉を選んだつもりだった。
 しかし、相手はそれを聞いて静かに笑う。その笑い声は集団の中に伝染して、いつしかとても気持ちの悪い笑い声の合唱となった。
 視界の端っこの方で、ニボシちゃんがしっぽを丸めて怯えているのが見えた。
「うん、大変だったよ」 
 集団の中の一人が、代表して言った。
 そして、頷き合う。

「お前らの落とし穴のお陰でなあぁぁあああああ!!」
 
 色々と謎が解決した瞬間だった。
 そして、次の瞬間。
 血相を変えた僕達三人の保護者が、小屋に飛び込んできたのだ。
 僕たちはなすすべなく、連行されるしかなかった。

 

  〈エピローグ〉


 森戦は一週間後にやりなおしとなった。
 異例の事態らしく、村長は頭を抱えている。すぐにではなく一週間後になったのは、衣装が泥だらけになってしまって補修に時間がかかるからだそうだ。
 ――着なくていいよ、んなもん。
 僕達はそう主張したが、大人たちはまるで耳を貸さなかった。頭が硬すぎるんだと思う。
 そういえば、ムックじいさんは、ニボシちゃんと一緒に厳重注意を受けていた。
 そして、僕たちはというと――
「おら、キリキリ働け!」
「はい!」
 またもや、家の手伝いをさせられているのだった。
 今日も、一日は中々に終わりそうもない。
 ただ、僕たちが大人になるのは、あともう少しだけ先のことになりそうだ。

 森戦が散々なことになった次の日。僕たちが一番最初に課せられた仕事は、森中に作られた落とし穴を埋めて回ることだった。
「なんで僕が……」
「なんで、私が……」
 明らかにとばっちりに巻き込まれただけの僕たちのテンションは低く、
「さぁ、行こうか!!」 
 ただ一人、エドガーだけが楽しそうだった。
 落とし穴は、エドガーが自分一人で行ったときに作ったものが多いらしく、結構な広範囲に及んでいる。みんなが落ちたらしき場所はすぐに特定できた。それを見てひとしきり笑った後、どんどん、それらを埋めなおしていく。意外な重労働で、作業は結局丸一日かかったのだった。
 一つだけ、単独で誰かが引っ掛かったあとがあったのだが、たぶん野生の動物か何かだろう。

 ムックじいさんは、今回は少し滞在しただけで、去ってしまった。
 僕たちはじいさんが滞在した期間中、ほとんど働かされていたので結局ほとんど会えないままだ。けれど僕は、どうしても聞きたいことがあって、一度だけ抜け出して会いに行った。
 聞いたのは、エドガーの地図と、リンカの「伝説の食材」についてだ。
 まぁ、そのことについては、二回目の森戦が終わった時に、しっかり時間を取って二人に話そうと思う。

 そういえば、あれ以来、村の中にはいたる所に立て札が立てられている。
 曰く――

〈動物の放し飼いは、大変迷惑となりますのでご遠慮下さい〉







 Fin 



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