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特別小説

大人の階段のぼるには〈4〉

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  〈4〉


 森戦――いや、ここはあえてきちんと名前を呼ぼう。森への挑戦の当日。朝早くに叩き起こされた僕たちは、町の広場に集められた。 
 そこには、この村の十三歳の子供たちが集められ、それぞれ不安そうだったり楽しそうだったりと、十人十色な表情を浮かべている。
「にしても――なんか、人多くね?」
 エドガーが、あたりを見渡して言った。
「うん、僕もそう思う」
 いや、別に人数自体が増えているわけではない。
 ただ予想していたよりも多いのだ、参加する人数が。
 僕の知る限りでは、今回森戦への参加表明をしていたのは、全体の五割に過ぎなかった。それが、当日になっていきなり膨れ上がったらしい。
「なにがあったんだ……?」
 その疑問は、僕たちが来たことに気づいた奴らに話しかけられたことで、判明した。
「今年、お前らが出るらしいな」
 そう肩をこづかれ、はぁ、と意味がわからず返事をした。
「お前らだけは、絶対に出ないと思ってたのに、それが親に聞いたら出るって言うじゃんか。それなら、俺達もでるしかないよな」
「絶対に負けないからな」
「なんだか、楽しそうだしな、僕も参加することにした」
「私も」
 ということらしい。
 僕たちは自分たちが思っているよりも、有名人だったようだ。
「なんだか、また怒られそうな気がする……」
 感心する僕の後ろで、リンカが悩ましげにそうつぶやいていた。
 ――うん、確かに。

 ちなみに、あの時僕たちが襲われたオオカミは、あれ以来一度も姿を現していない。
 森の中をだいぶ広範囲にわたって大捜索が行われたものの、それらしき姿は確認されなかったらしい。
 一応、今回の森戦では武器を持った大人たちが、森の中を見張っていて、万が一の時のために備えているのだとか。
「だから、安心して儀式を行なって欲しい」
 そう告げられたとき、僕たちは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「二度と会いたくねぇな」
「うん」
 しかし、僕たちは忘れていたのだった。
 その大人の包囲網をかいくぐって、僕たちは財宝掘りとキノコ採りに行く予定だったということを。

 祝祭はにぎやかに進んでいく。
 村中にいろんな食べ物が溢れ、音楽が流れる中、僕たち森戦組は村の外を流れる川へ移動した。身体を清めるためだ。そして、そのあとに祝祭用の衣装を着る。
 しかし、これが着てみると意外と暑苦しかった。なにやらいろいろとゴテゴテしていて、お世辞にも着心地がいいとは言えない。
「マルタくん、よく似合ってるわよぉ」
 と、僕の髪を整えてくれているオバサン連中が言う。
「そうですか?」
「うん、なんだかテントウムシみたいで」
 それは、褒め言葉なのか?
 という突っ込みは心のなかにしまい込み、あはは、と愛想笑いをした。
 あのオバサン、絶対に分って言ってるだろ……。
 僕とエドガーがテントの中で着替えを終え、外に出ると、
「あ、似合ってるじゃん」
 とリンカの声がした。
 着替えるのが女子のくせに早いなとか思いつつ、そちらの方を見ると、
『…………誰?』
 ――なんか知らない人がいた。
 思わずエドガーと言葉が重なる。いつもなら、それに難癖をつけるところだが、今はそんなことをしているような余裕もない。それほど、僕とエドガーはショックを受けていた。
 もしかして、あれはリンカなのか? いや、そんなわけがない。リンカはもっと――もっと……、
「なによ、なんか変?」
 僕とエドガーがじっと見つめていると、その〈誰か〉は恥ずかしそうに身をよじる。その声だけは確かにリンカで――僕たちはこう叫ぶしかなかった。

『テントウムシそっくり!?』

「うるさいわね! お互い様よ、お互い様!!」  
 ホントに、この衣装はおかしいと思う。
 とはいえ、これがこの村に伝わっている伝統的な衣装である以上、今は耐えるしかない。大きくなったら、絶対に改善してやると、心の中で誓う僕たちだった。
 ――伝統なんてクソ喰らえ。

 その後もいくつかのハプニングをはさみつつ、ついに森戦の時間がやってきた。
 スタートラインは、ちょうど森が見える広場の一つだ。テントウムシ柄のクソ衣装――もとい、伝統的な衣装を身につけた僕たちは、整列して村長からの説明を受けた。
 ちょうど日が傾きかけてきた時間帯だ。少し和らいだと言ってもまだまだ厳しい太陽の光が、裸足の僕たちを責め立てる。
 タイムリミットは日没。
 それまでに様々な障害を乗り越え、森の奥にある小屋へとたどり着き、その中から番号の書かれた札を持って帰ってこなければいけない。
 その試練をいち早く成し遂げた人は、おおいに讃えられる。
 ――つまり、報酬は精神的に、というわけだ。
「ケッ、やってられっかよ!」
 というようなことは誰も言わない。そんなことは先刻承知で、それ以上に、この儀式をゲームと捉えて楽しみにしているようだった。僕たちの参加が、なにやら変な火をつけてしまったらしい。
 彼らから送られてくる「負けないからな!」という暑苦しい視線を受け流しつつ、僕は心の中で謝っていた。
(すみませんすみません、僕たちサボります……)
 そんなことをしているうちに、いつのまにか村長の挨拶も終わったらしく、用意!  との号令が下った。
 全員がスタートラインに並ぶ。
 ついに始まるのだ。
 ――僕たちの最後の、盛大な遊びが。
 この三日間、周到に準備してきた。どんな大人にも邪魔させやしない。徹底的に遊び尽くしてやる。
 そんな決意が自分の中でストンと落ちた瞬間、

「しゅっぱあああああつッ!!」

 村長の、野太い声が響き渡った。
 あの人結構無理しているけど、大丈夫だろうか。

          ◇◆◇

 一番最後に森に入った僕たちがまず目指したのは、一つの大きな木の切り株だった。
 その根本の茂みに、先日、こっそりと仕込んだシャベルとキノコ用のバスケットが隠してある。それを回収したら、今度は大人たちの包囲網をかいくぐって、僕たちの今回の狩場へと向かうのだ。
 僕たちが立てた計画は単純だった。いや、計画というより、単なる事実の確認といってもいいかもしれない。
 とりあえずいつも僕たちが行っている森一帯は、森戦の会場になるので使えない。だから、今回はその外へ行ってみようということになった。つまり、あの時に迷い込んだ針葉樹の森だ。
 大人たちがやけに密に見張っていたが、この森は僕たちの庭みたいなものだ。見つかるわけがない。
 そうして、ようやく抜けだして針葉樹の森にたどり着いたとき、何か嬉しさとも悲しさとも取れる感情が心のなかからこみ上げてきて、僕はいてもたってもいられなくなった。
「さぁ、掘ろうぜ、掘ろうぜ」
 いつもならそう急かすのはエドガーの役割なのに、それを先走って口にしてしまう。しかし二人とも変な顔ひとつせず、腕まくりして、シャベルを手にした。僕もそれに習う。
「――さぁ、掘るべし!!」
 今度こそエドガーの号令に従って、三本のシャベルが、地面に突き立った。

 一時間後。
「あー、これはちょっと、やりすぎたかもな」
 エドガーが苦笑いしながら言った。
 他の人達が真面目に試練を乗り越えているであろう時間帯、夢中になって穴を掘っていた――正確には財宝を探していた僕たちは、汗だくになって自分たちの作業の後を眺めていた。
 一言で言うなら――地獄。
 辺りは掘り返された土でぐちゃぐちゃになっている。少し前まで静かな針葉樹林の一分だったのだと思うと、我ながら良くここまでやったものだと思う。ある意味壮観だった。
 途中からは、もう財宝探しとか言うより穴掘りがメインになっていたような気がする。
「――にしてもなかったな!」
 エドガーが吹っ切れたように言って、笑った。
 豪快な笑い声だった。
 それが彼にとって、これまでずっと追い続けてきた財宝探しの夢の、一区切りだったのかもしれない。
 僕たちもそれを聞いているうちに、なんだかおかしくなってきて、シャベルを放り投げて笑った。めちゃくちゃに掘り起こされた森の大地の上を、三人の笑い声が響いていった。
「あ、そうだ」
 ひとしきり笑うと、エドガーが思い出したように言った。
「ここ、どうする?」
 あたりの惨状をぐるっと見渡す。
「ああ……ひどいよね、これ」
「さすがに、放っておくわけにはいかないしな」
 僕と、リンカも口々に反応する。
 ふと、妙案が浮かんだ。
「これ、全部落とし穴にしちゃえばいいんじゃないか? 最後のいたずらって言うことで」
「いいね、それ!」
「最高じゃん」
 一瞬で同意を得る。
 そして立ち上がった僕たちは今度は掘った穴を落とし穴に改造していった。木の枝で穴の上を封鎖し、その上を葉っぱで覆ってからさらに土をかける。必殺穴掘リストのエドガーがいるお陰でか、一時間ほどでその場は、見た目だけは元通りになったのだった。
 パンパン、と土で汚れた手を払い、エドガーが腰を手に当てて言った。
「これにて、作業終了、と」 
 そして、納得したように頷き、それから明るい声を上げる。
「よし、次に行こう!!」
『おう!』 
 そして僕達は、第二の予定――キノコ探しへと移ったのだった。
 少し移動して、この森の中でも一番古い区域へと入っていく。地面には倒れて朽ちている木がたくさんあり、その上を苔が覆っている。不思議なバランスで成り立っている、とても静かな空間だった。
 ほんのりと湿ったような空気が辺りに満ちている。
「じゃあ、別れましょ」
 リンカは手早くパインバンブーの絵(おそらく手書き)を僕達に手渡し、そして行く方向を指示した。
「だいたい、あと一時間後にここに集合ね」
「ちょっと待て」
 嫌な予感がして、僕は言った。
「何?」
「三人バラバラになって、ちゃんと帰ってこれるのか?」
「アンタたち、そんなに方向音痴じゃないでしょ。それにこの森に来るのも、もう何回目だと……」
 まさか、コイツ自覚がないのか?
「俺達の事じゃなくて、リンカ、お前方向音痴じゃねぇか」
 エドガーが僕の気持ちを代弁してくれる。
 それを聞いてリンカはきょとん、としたように首を傾げた。
「いやね、私が方向音痴なわけないじゃない。目的場所がどんどんと逃げて行っているだけで」
 本人にとっては、そういう認識だったらしい。もう言うまい。
 まあ、これまでもなんだかんだ言って生きて帰ってきている。今回も、大丈夫だろう――とは思うけれども、僕たちは今一度きちんと目印を付けて入っていくようにリンカに忠告して、そして別れた。
「倒木の裏側とか、よく調べてねー!」
 そんな声が後ろから追いかけてきた。

 きっかり一時間ほど後、僕とエドガーは先程の集まった場所へと集合していた。
 顔を見合わせてお互いに一言。
『ない!』
 そして、頷き合う。
 パインバンブーはなかった。しかし、それでも僕達の持つバスケットは、たくさんのキノコで満たされている。秋だけにたくさんのおいしいキノコが全盛期を迎えているのだ。バスケットを持って森に入りながら、それを収穫しないことは僕達にはできなかった。
 それにしても、
「言わんこっちゃない……」
 リンカは全然帰ってこない。
 この場合下手に探しに行くより、ここで叫ぶほうが得策だろう。
「リンカー!!」
 慣れたもので、僕とエドガは背中合わせになっていろんな方向へと叫び始めた。
 これはもしかしたら、長期戦になるかもしれない。
 そうしたら、さすがにちょっとマズイか……。というその不安は、良い意味でも悪い意味でも裏切られた。同じくバスケットをキノコで満たしたリンカが、そのキノコを派手にまき散らしながら走ってきたのだ。
「あ、やあ」
 リンカにしてはずいぶん早かったねぇ、と声をかけようとすると、そのまま僕達の横をすり抜けて走っていく。前から、悲鳴のような声が聞こえてきた。
「また、でよったぁああああああああああッ!!」
 一瞬の間のあと、ようやく自体を把握した僕たちは、一斉に走りだした。
「逃げろぉおおおおおおおおお!!」
 木々の間からあの時のオオカミがその巨体を現したのは、その直後だった。
「いや、だからなんでこんな目にばっか遭うんだよ!!」
 走りながら、エドガーが文句を言う。
 僕は息も絶え絶えに答えた。
「知らん、日頃の行いのせいじゃないか」
「なにお! 俺ほど日頃の行いが良い人は――」
 途中まで言いかけて、恥ずかしなかったのかエドガーは口ごもった。どうやら大人の階段をひとつ上ったようだった。
 それにしても、今回だけはもうだめかもしれない。ずいぶんと奥に入ってきてしまったし、それに、前みたいな幸運がそう起こるとは思えない。
 一つだけ望みがあるとすれば、それは森を警護していた大人に助けてもらうことだ。これほど、大人に頼りたくなったのは始めてだった。
 目の前からどんどんと遠ざかっていくリンカを見ながら、僕たちは叫んだ。
『オオカミが来たぞぉおおお!!』

 方向もわからず、ただリンカの背中を追って走っていた。
 気づくと、いつのまにか後ろの気配は消えている。
「……え?」
 もしかして、引き離した?
 そんなワケがない。でも確かに、もう追ってきている音はなかった。
 それでも止まる気にはなれず、僕とエドガーは顔を見合わせながら走りつづける。どこでもいい、どこか安全なところへ。それだけを思いながら。
 それからすぐ後のことだった。
 僕達の前に小さな小屋が現れたのは。そこに飛び込んだリンカに続き、僕達もその小屋の中に転がり込んだ。
 荒い息で、
「す、すみません。オオカミに襲われまして……」
 そう説明しながら顔を上げる。
 そこにいたのは、小柄なじいさんだった。奇妙な帽子をかぶり、派手なベストを着ている。先がクルッと丸まった靴を履いて足を組みながら、一人でボードゲームに興じていたようだった。
 やけに見覚えのある格好と顔だった。
 なんで、この人がここにいるんだろう……?
「ムックじいさん!?」
 やっとそう叫ぶと、呼吸を整えていた二人が弾かれたように顔を上げて、
『え?』
 と間の抜けた声を出した。











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