スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←大人の階段のぼるには〈1〉 →大人の階段のぼるには〈3〉
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  • 【大人の階段のぼるには〈1〉】へ
  • 【大人の階段のぼるには〈3〉】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

特別小説

大人の階段のぼるには〈2〉

 ←大人の階段のぼるには〈1〉 →大人の階段のぼるには〈3〉
  〈2〉


 次の日の朝。
 早くから準備をして、こっそり森へと侵入した僕たちは――さっそく迷った。
 もうこの森に入り始めて、五年は経つというのに……まだ迷う余地があったとは我ながらに驚きだ。高い木のそびえる針葉樹林を見渡しながら、小休憩を取ることにした。
「ここ……どこ?」
リンカが手に持ったキノコ採集用バスケットを、退屈そうにいじくりまわしながら言った。
「知らねぇよ。だいたい、お前が勝手に走っていくから、迷ったんじゃねぇか」
 エドガーが穴掘り用シャベルを手に、糾弾する。
 リンカは肩をすくめて見せ、
「止めないのが悪いのよ」
 そう悪びれずに言った。
「てめ、言わせておけば……」
「なに、やる気?」
 十三歳にもなって、まだ五歳のノリで喧嘩を始めようとする二人。
 それを仰ぎ見ながら僕は言った。
「おい、僕に仲裁とか期待してるんなら、やめとけ」
「あ、マルタいたの?」
 過呼吸で倒れかけ、そのまま休養をとって地面に寝ている僕を見下ろして、リンカが拳を固めつつ言った。
「大丈夫よ、仲裁なんか期待してないから」
「いや、それ以上に踏まれそうで怖いんだけどな」
 本音を漏らすと、なるほどと頷く。頷くだけに、怖い。
「そんなに走ってないだろ」
 エドガーが茶化したように言うので、
「誰に所為だと思ってんだ……」
 僕はもうあきれるしかなかった。
「お前の荷物も持って走ったから、こんな風になったんだろうが」
「あ、そうだっけ?」
「そうだっけじゃねえよ」
 森に入るなり、勝手にコイントスをして、歓喜の声を上げながら僕にクソ重い荷物を押し付けやがったのはどこのどいつだ。だいたい、どっちの面が僕かすら決まってなかったはずだ。
 ――沈黙。
 針葉樹の木々の中を、風がざぁっと吹き、パラパラと古い葉をふるい落としていった。遠くで、鳥の声が聞こえたような気がする。
「静かだな」
 ポツリと、エドガーが言った。
「静かね」
「パクんな」
 同調したリンカに、エドガーが一言。
「なにお!」
 また森の中に喧騒が満ちた。
 分かった。もう勝手にしてくれ。

 僕の呼吸が落ち着いた頃、僕たちは再び出発した。
 そもそも、僕たちの知っている森は広葉樹林であって、針葉樹林なんて見たことはほとんどない。
「こりゃ、ずいぶんと奥まで入ってきちまったのかなぁ……」
 僕たちの住むコメンティアの村は、周囲を険しい山脈に囲まれた盆地にある。周りを森で囲まれていて、あぶない動物は出ないものの、代わりにずいぶんと孤立している村だ。冬になると山脈は雪に閉ざされ、完全に隣の村との連絡も途絶えてしまう。
「周囲を山で囲まれてるわけなんだから、降りていけば自然と村につくんじゃないか?」
 そう提案すると、
「なるほど、頭いいね!」
 いち早く納得したリンカが、ぽん、と手を打って歩き出した。
「おい、ちょっと待て」
「え、なに?」
「お前の方向感覚だけはアテにならねぇ」
 エドガーが引き止める。
「なんで?」
「なんでじゃねぇよ。お前、この前村長の家に来るときにすら迷ったじゃんか」
「私のことを信用してないってわけ?」
 信頼できる要素がどこにあるというのだろう。
「うん、全く」
「なにお!」
 悪いが、僕もそれには全面的に同意する。リンカは、致命的な方向音痴だ。
 まず、地理感覚がない。 
 そして、方向感覚もなければ、時間感覚もない。
 そんなやつが、良くこれまで森に侵入して、生きて帰ってこれたものだ。
「とにかく、僕とエドガーでももう少し考えるから、リンカは少し待って」
「う……むむ」
 不満気に唸ったけれど、それ以上の反論はなかった。
 僕とエドガーの感覚に従って、ゆるやかな斜面を降りていくと、やがて見慣れた広葉樹林へとたどり着いた。
『おおーっ!』
 今までそこはかとなく不安を感じながら歩いていただけに、ようやく、ほっと息をつき、僕たちは歓声をあげた。
 バサバサっと音がして、木から鳥が飛び立った音がする。
「あと、もう少しだろ。俺、ここに見覚えあるから」
 エドガーの確信に満ちた言葉に、僕たちは皆頷いた。
「じゃあ、ちょっと一休みしないか?」
 まだ、先ほどのダッシュの影響が体に残っていて、だるかった。反対されるかと思ったが、あとの二人も少し疲れがたまっていたらしく、
「ちょっと休もうか、ちょっと」
 という話になった。
 そして、気づけば眠りに落ちていたというのは、もはやお約束だった。
 
          ◇◆◇

 甘かった。
 あの高級食材、蜂蜜よりもはるかに甘かった。
「誰だ、あの時寝ようとか言い出した奴はっ!」
 ――辺りは真っ暗闇。
 ちょっと昼寝とか言うレベルを超えていた。
「俺じゃねぇよ?」
「私は違うけど?」
 しらじらしい二人に愛想も尽き果てた。
「っていうか、マルタ、お前じゃねぇの?」
「うん、マルタだったよね? 寝ようとか言い出したの」
「とにかく!」
 風向きが悪くなったので、一旦話を区切る。
「急いで帰ろう」
 ギャグで済ませられる範疇はそろそろ超えてきていた。家では親が心配しているだろうし、こんな暗い時間帯に子供が外を出歩いているだけでも問題だ
 急いで荷物をまとめ、そろそろと歩き出した。
 誰も明かりは持ってきていないけれど、木々の隙間らから落ちる月明かりだけを頼りに、進む。
「そう言えばさ、ちょっと思い出したんだけど」
 沈黙を恐れるように、リンカが大きめの声で言った。
「確か、この森って立入禁止だったよね?」
「そうだっけ?」
「なんか、日常的に入っちゃってたから感覚がマヒしてたけど、確かにここは立入禁止だったはずよ」
 そういえばそうだった。
 しかし、なんでだろう。そう聞くと、二人とも一斉に首を傾げる。
「覚えてないんかい」
 突っ込むと、お前もだろ、という視線に瞬殺された。まぁ、そうだけどさ。
「あ、いや、どっかで聞いたような気もする……」
「うん、私もどこかで聞いたような気がするんだけど……」
 ――『昔のこと過ぎて』
 二人の言葉が被る。
 それがきっかけになり、二人とも、何かを思い出したかのように「あ!」と顔をあげた。
「おお、思い出した!?」
 なんだかんだで頼りになる仲間だ。
「別に、あんたのおかげで思い出したわけじゃないんだからね!」
「別にさっきのがキッカケで思い出したわけじゃないんだからな!」
「どうでもいいツンは止めてもらえませんか!!」
 というワンクッションを置いて、ごくりと生唾を飲み込んだエドガーが言った。
「確かさ……、いや、確証はないんだけど、全くないというか全然ないんだけど」
「なら言うなよ」
 という僕の突っ込みは無視して、エドガーは続けた。
「ここって、オオカミが出るから立入禁止なんじゃなかった?」
「え、そうだっけ?」
 意外と普通な理由だな。
 しかし、
「でも、それにしてはやたらと監視が緩いけどな」
「私の聞いた限りでは、確か基本的に安全だけど、いつだったか一度だけオオカミを見たっていう報告があったから、それ以来一応立入禁止にしてるんだって」
「つまり、それ以来、全然オオカミとか出てこないから自然と監視も緩くなったってわけか……」
 適当だな。おい。
 ふうん、と勝手に納得しながら歩いていると、不意にリンカが立ち止まった。
「どした?」
 釣られて僕たちも立ち止まり、それを振り返る。
「なんかさ……すごぉく、嫌な予感がするんだけど」
「奇遇だな、俺もだ」
「ああ、僕も」
 背筋がゾクッとした。
 でも、その先を言ったらダメだ。とにかく先に進まないと。そう促そうとした僕の気遣いを、一ミリとも察しないまま、リンカはその一言を口にした。

「さっきからの会話の流れって、絶対にここでオオカミが出てくるパターンよね」
 
 そう言うリンカの後ろ。
 暗い森の中に、二つの赤い点が見えた。
「な、なんだあれ?」
 エドガーがつぶやき、僕は小声で叫ぶ。
「リ、リンカ……後ろ!!」
「え?」
 ゆっくり後ろを振り返った、リンカが一瞬硬直した。
 そして、
「でよったぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっ!!!!」
 と叫んで走りだすのと、
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
 とその後ろの赤い点が吠えて、動き出すのは、同時だった。
 ほれみろ、言わんこっちゃない。だから、やめとけと言ったのに。
「逃げろぉぉおおお!!」
 そんな事を考えながらも、僕たちは必死で走った。

 正直なところ、こんなにも速く走ったのは初めてだったかもしれない。
 僕の記憶する限り、最高記録だ。
 まあ、そんなことはどうでもよく、問題は後ろから聞こえてくる、いかにもオオカミっぽい息遣いと気配が迫ってきていることだ。
「も、もうダメな気がする!」
「諦めんな!!」
 弱音を口にしたら、横を走っているエドガーに怒られた。
「いま諦めたら――」
 エドガーはチラリと前方に視線をやる。
 そこには、驚異的なスピードでオオカミだけでなく僕たちをも置き去りにしている、リンカの後ろ姿があった。そういや、あいつは足がめちゃくちゃ早いんだった。
「あいつだけ生き残ることになって、ムカつくじゃねぇか!」
「ああ、まったくその通りだ!」
 お前さんだけ生かしゃしないよ!!
 そういった漢のプライドが、僕たちの中にはあった。
 ――と、次の瞬間。
 いきなり目の前の景色がぶれた。と同時に、足の下に確かにあったはずの大地の感覚も消え去り、突然空中に放り出されたかのような感覚が僕を襲った。
「な――ッ!?」
 そして、ドスン、とすごい衝撃が全身に伝わる。
 なんだこれは。落ちたのか? どこに?
 顔のすぐ近くに、土の感触がある。頭の上からもパラパラと土塊が落ちてきて、それに反応して上を見上げると、ちょうど綺麗に満月が見えた。入り口は結構高いところにある。どうやら、穴に落ちたらしい。おそるおそる上の気配を探ったが、どうやらオオカミが行ってしまったようだった。
「オオカミ、いなくなったみたいだな……」
 隣で声がしたので、びっくりした。
 どうやらエドガーもいっしょに落ちていたらしい。顔はほとんど見えず、声でしか判断のしようがないが、まさかこの汚い声がリンカなわけもない。
「ああ。それにしてもなんだろうな、この穴」
 自然に出来た穴だろうか。
 すると、エドガーはちょっとバツの悪そうな声で、
「はは、なんだろうな……落とし穴かな」
「怪しい」
 怪しすぎるだろう。
「え?」
「エドガー、お前なんか隠してるだろう」
「あ、ははっはは、なんにも」
「言ってもらおうか」
 あくまでシラを切るつもりらしく、エドガーは引きつった笑い声を上げつづける。
 それを見ているうちに、ふっと一つの考えが浮かんだ。
「まさか、お前。財宝を探すために掘った穴を、ただ埋めるのがもったいないから落とし穴にしたとか、そーゆーことじゃないだろうな」
「あはは――な、何の話かな?」
 コイツ、バカだ。
 思わず脱力してしまい、落とし穴の底でぐでっと横たわる。それから、立ち上がろうと足に力を込めると、激痛が走った。
「――痛ッ!」
 どうやら落ちた時に、足を捻挫したらしい。
「お前、立てる?」
 うずくまりながらとなりのエドガーに聞くと、力なく首を横に振る。
「俺も、やっちまったっぽい」
「自分の作った落とし穴に落ちて捻挫、っていうのも悲しいオチだな。落とし穴だけに」
「なにか言ったか?」
「別に」
 ――魔が差しました。
 まぁ、とりあえず、二人とも足が使えないということらしい。
「まぁ、あの勢いならリンカが村に行って助けを呼んできてくれるだろ」
「じゃあ、それまで休むか」
 エドガーがそう提案してくる。
「いや、それはマズイんじゃないか。このあと穴が崩れる可能性もあるわけだし。まあ、そんなに時間はかからないだろうから、しりとりでもして待ってようぜ」
「おう」
 それから、僕とエドガーによるガチンコしりとり対決が始まった。
 対決が白熱してきたころ、ふとエドガーが思い出したように言った。

「そういや、リンカ。重度の方向音痴だったよな」

 忘れていた。
 助けが来たのは結局、次の日の朝だった。

 ――リンカはどうしたんだ。




関連記事


  • 【大人の階段のぼるには〈1〉】へ
  • 【大人の階段のぼるには〈3〉】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【大人の階段のぼるには〈1〉】へ
  • 【大人の階段のぼるには〈3〉】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。