スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←君と空との見つけ方〈3〉 →On the Top of That Mountain《間章1》【第十二話ノ壱】
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  • 【君と空との見つけ方〈3〉】へ
  • 【On the Top of That Mountain《間章1》【第十二話ノ壱】】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

特別小説

君と空との見つけ方〈4〉

 ←君と空との見つけ方〈3〉 →On the Top of That Mountain《間章1》【第十二話ノ壱】
 誰かに呼ばれたような気がして、僕は目をあけた。 
「って、寒っ!」 
 身体を起こすと、夏とは思えないようなひんやりとした空気がシャツの隙間から流れこんできて素肌に触れる。
 外はまだ早朝のようだった。黒い雲が白み始めた空に浮かび、頭上には薄れ始めた星が微かにまたたいている。
 頭が痛いのは、おそらく数時間しか寝ていないからだろう。頭だけでなく、ついでに身体も痛い。
「えっと……ここは?」
 誰ともなしにつぶやいた言葉に、
「公園です」
 答えが返ってきた。寝ぼけた頭で見渡すと、その答えの主はすぐそばに立っている。一人の女性だった。僕より少し年上だろうか。東の空をバックにして、黒く長い髪がさらりと揺れる。
 そこにどこか途方もなく美しいものを感じて、僕は声も出せずに見つめた。
 夢なのではないかと、そんな考えすら一瞬頭に浮かんだ。
「もうすぐ、朝日が昇ります」
 小さなかすれた声が前から流れてきた。
 ――一緒に見ませんか?
 その誘いに、僕は頷いて立ち上がった。

 やがて、空が燃えはじめた。
 真っ赤だ。空が全て、燃えるような赤に染まっている。
 まるで、あの時の満月のような――、
 そうだ。
 突然思い出した。
 いま僕の横に立っている女性は、一昨日の晩に、出会った人とよく似た雰囲気を持っている。
「もしかして、一度会いましたか?」
「はい」
 それを待っていたかのように、するりと返事が返ってきた。
 ささやかにふき続けていた風が、一瞬凪ぐ。
 その瞬間、まばゆい光のすじが女性の横顔を照らした。僕の視線を感じたのか、女性が振り返った。黒い瞳がこちらに向けられる。吸い込まれてしまいそうな、深い黒だった。
「朝焼けの日は、雨なんですよ」
 突然女性が言った。
「そうなんですか?」
「ええ、昔からよく言うんです。夕焼けは晴れ、朝焼けは雨って。これ、結構あたるんです」
 ――だから。
 とその次の言葉が継がれるのには、少し時間がかかった。
「早く帰ったほうがいいかもしれません」
 女性の言っているのが、僕のことだとわかるのに多少の時間を要した。
 これから天気が崩れるから、はやく家に帰ったほうがいい。そう言っているのだ。
「そうですね」
 特に逆らう理由もなく、僕はベンチの横に置いてあったオンボロママチャリに手をかけた。
 朝露でしっとりと濡れている。
「これ、使って下さい」
 目の前に小さな花がらのハンカチが差し出された。
「サドルが濡れていると乗りにくいでしょう?」
「あ、すみません」
 やがて使い終わって濡れたハンカチを返すと、女性はふたたび東の空へと目を向けた。
 太陽が出ただけで、周りの世界は明るく変貌している。
 公園の草むらに、小さな紫色の花が群生しているのが見て取れた。
「ところで」
 僕はその横顔に声をかけた。
「ここがどこか教えていただけませんか?」
「ここですか――?」
 そうして押してくれた場所は、結構意外だった。
 ここは、僕がバイトをしているパン屋の、更にその奥に行ったところにある公園らしい。つまり僕は隣町からずっと回って、山の反対側からここまで入ってきたということだ。
「ありがとうございます。それでは――」
 そう言って自転車にまたがろうとすると、女性が少し慌てたように振り返った。
「その……」
「はい?」
「太陽が顔を出してから登り終えるまでの時間は、だいたい四分くらいなんですよ。知ってました?」
「……いえ」
 突然の話題に、戸惑いつつもそう返す。
「なんでだと思います? ヒントは、太陽の大きさが2度だっていうことです」
「えっと……はい?」
「答えが分かったら、またここに来てください」
 そう言って女性は微笑んだ。 
 最高の笑顔だった。
 正直意味がわからなかったけれど、その笑顔を見ていると僕は思わず頷いてしまったのだった。

 帰り道。
 すこし走ると、見慣れた道へとやってきた。そしてすぐに、あの事件の現場へとたどり着く。
 そうか。
 あの人は、ここで僕が電信柱にぶつかったのをみていたんだな。
 そう分かると、無性に恥ずかしくなった。
 少ないギアを操作して、一番重くすると立ち乗りになって思い切りペダルを踏み込む。自転車がぐんぐんと加速していく。朝の空気が顔にあたって、心地よい感触を残していく。
 朝早いだけに、道路にはほとんど車は走っておらず、僕はノンストップで家まで走り抜けた。
 気分は最高だった。
 なぜだかよくわからないけど、最高だった。
 しかし、僕は重要なことを一つ忘れていたのだった。
「慶吾~」
 インターホンは不味いだろう、と外に隠してある鍵を使ってドアをひらくと、中から充血した目の姉さんがでてきた。そして、有無を言わせぬ口調でボソリと呟いた。
「アンタ、どこ行ってたの?」
「あ」
 気づいた時には時すでに遅く、姉さんは殺気を孕んだ目つきで「全部説明してもらうわよ」とすごんだのだった。
 もちろん僕には頷くしか選択肢はなく、朝から地獄の尋問を受けることになったのだった。

「どれだけ、迷惑かけたか分かってる?」
「はい」
「反省してる?」
「はい」
「どうやって償うつもり?」
「はい――って償う?」
 もちろん、と姉さんが頷いた。
「私にこれだけの時間を無駄にさせたんだから、それ相応の償いはしてもらいますからね」
「マジで?」
「マジ」
 うわぁ、と頭を抱え込むと、姉さんが小さなため息をついた。
「それで、なにかいい事あった?」
「え?」
 だから、と姉さんが苛立った声を上げる。
「何のために家出したのよ」
「ああ、それか」
 なにかいい事。
 頭を巡らせずとも、それはすぐに分かった。
「うん、あったと思う」
「なにか変わった?」
「うん、たぶん」
「微妙な答えね」
 そう言いながらも、最後に姉さんは「良かった」と息をついた。
 その時はじめて、僕は心配をかけたことを申し訳なく思ったのだった。
 疲れたように、姉さんは立ち上がった。
「私、もう寝る」
「おやすみ」
「あ、でもその前に、せっかくだし私からもヒントをあげる。一日は二十四時間で、角度にすると三百六十度でしょ。それであとは計算するだけ」
 ――もう半分答えかも。
 そんなことをぶつぶつつぶやきながら、姉さんは去っていった。

 昨日まで感じていた、閉鎖的な気持ちはどこかに吹き飛んでいた。
 その代わりに突き抜けたような解放感が、身体を満たしている。今なら、なんでもやれるような気がした。
 遅すぎると母さんは言うだろう。
 それでも、地団駄を続けていた足を、前に踏み出そう。
 そう決めたのだった。


関連記事


  • 【君と空との見つけ方〈3〉】へ
  • 【On the Top of That Mountain《間章1》【第十二話ノ壱】】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

まとめtyaiました【君と空との見つけ方〈4〉】

 誰かに呼ばれたような気がして、僕は目をあけた。 「って、寒っ!」  身体を起こすと、夏とは思えないようなひんやりとした空気がシャツの隙間から流れこんできて素肌に触れる...
  • 【君と空との見つけ方〈3〉】へ
  • 【On the Top of That Mountain《間章1》【第十二話ノ壱】】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。