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特別小説

君と空との見つけ方〈3〉

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  《Ⅱ》

 ブレーキをかけると、同時に蛙の声が止まったのが分かった。
 ところどころ田んぼのある、古い住宅街。そこにある一本の電信柱の下で、僕はリュックを下ろした。姉さんに書いてもらった、彼氏――田中大毅《たなかだいき》というらしい――の家の地図を確かめるためだ。
 チャックを開けて小さな紙切れに書かれたそれを取り出すと、安定しない蛍光灯に照らされて、紙面が少し青白く見える。さらに虫まで集まってくるせいか、チラチラと影がよぎって、中々に読みにくい。
 それにしても――
「どこ?」
 早速迷ってしまったようだった。
 一応出る前に見た地図通りに進んできたはずなのに、いつのまにか変な住宅街の中にいる。僕の計算ではいま、少し大きめの県道沿いにいるはずなのに、何かがおかしい。
 田中とか言う人の家は、ちょうど隣接している隣の市にあるらしく実際そこまでは遠くないのだが、なにぶん行ったことがない場所だ。もう少し遠いところならまだしも、こんな微妙な距離のところには足を伸ばしたことがほとんどない。
 近距離を移動する時に使っているオンボロのママチャリが、ギィギィと嫌な音を立てて軋みながら連れてきてくれたのが、とりあえず目的としている場所ではないことは確かだった。
 誰かに場所を訪ねようとしても、夜も八時を過ぎると外を出歩いている人も少ない。
「なんだよ……」
 うんざりしながら、僕は辺りを見渡した。
 もちろん、見知ったものなど一つもない。それぞれ部屋に明かりを灯した、くすんだ感じの家が並んでいるだけだ。こうなるとどうしようもない。アテもなく走って、どこか大きな道に突き当たるのを待つのが一番だろう。
「ダメだ、わっかんね」
 しばらく地図とにらめっこしたものの、姉さんの手書きの地図に広範囲が描かれているわけもなく、ましてや水素くんの使用などまったくなかった。
(我ながら、何しに来たのか分からない……)
 いま僕は家出をしているはずだ。
 なのに、なぜアドベンチャーをしなければいけないのだろう。別に、そんなものを求めて出てきたのではない。  
 ならばなにか――。
 姉さんの言葉を信じて、とも言える。しかし、それ以上に僕は体中にまとわりつく閉塞感から抜け出したかった。その原因を作っているのが、母さんの言うとおり自分自身だと分かってはいても、なにかのキッカケが欲しかった。それが理屈にかなっているかとかそういうことではなく、ただ、逃げ出したかったのだ。家という囲いから。
(今更、なにを青春してるんだか)
 そんな自嘲が頭に浮かんだ。

 家を出る直前――。
「姉さんはさ」
 僕は、小声で尋ねた。
「将来のことってどうやって決めた?」
「……え?」
 姉さんは、今ひとつ質問の意図がわからないといった風に眉を寄せる。
「だから、将来のことってどうやって決めた? って聞いてるんだけど。大学とかさ」
 現役の大学生はどのように考えているのだろう。
 それが聞いてみたかった。
「ふうん、そうね」
 姉さんの顔に、なにかを面白がっているような表情が浮かんだ。
「狙って行ってるのかわからないけど、これ、一度言ってみたかったからちょうどいいかも……」
 小声でなにやらぼそぼそとつぶやき、うん、と区切ってこちらを向き直った。
「それを見つけるために、大学に行ってるの」
 その言葉はどこか楽しそうで、でも奥底には真剣な響きがあった。 

 そんなことを思い出しながら、また自転車を漕ぎ始めた。
 とりおり羽虫が半袖でむき出しの腕に当たり、くすぐったい感触を残していく。これが腕に当たるだけならまだマシだが、昔何度かモロに顔へとぶち当たり、いくつかの穴から体内に侵入されそうになったことがある。あの時は最悪だった。
 適当に走って行くと、あたりの風景はいつの間にかどんどんと田舎になっていく。
 もはや人家なんて、ほとんど見当たらない。
「まぁ……いいか」
 口に出して呟いてみると、本当にそんな気がした。
 このままずっと、自転車に乗って走っていたい気分だった。解放感があった。爽快感があった。それらは皆、僕が卒業してからずっと、求めてきたものだったのかもしれない。
 高校を卒業し、義務教育を終える。解放される。そうなれば、自然と自分のやりたいことができて、そこから新しい道が見えてくるのだろうと、卒業前は想像していた。けれども、現実はまるで違った。僕は卒業しても「勉強」に縛られて、とうてい自由とは言えないような毎日を送っていた。
 それが今はじめて、自分はいろんなことから解放されて、自由だと、そう感じていた。
(もしかしたら、これが姉さんの言っていた、『家出』の意味なのかもな)
 漠然とそんなことを考えながら、僕は自転車を前に進めた。
 他のことはすっかり忘れていた。
 ただ、少しずつ夜が更けていった。
 
 その小さな公園にたどりついたのは、寝る前に確認した腕時計によると夜中の三時だった。
 やがて上ってきた――少しだけ楕円になった――月に照らされ、古ぼけたブランコや滑り台、それに小さな東屋とその中のベンチが見えていた。すでに数時間ほどぶっつづけに走った後のことだ。気持ちはまだまだ走れるような気がしていたが、身体がどうしてもついていっていなかった。
 一休みをするつもりでベンチに腰掛け、気づくといつのまにか深い眠りに誘われている。
 まぶたが自然に落ちる前に見えたのは、決して赤くない、純銀の月光に照らされ光り輝くオンボロママチャリだった。


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