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特別小説

君と空との見つけ方〈2〉

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 その日の晩ご飯は少し賑やかになった。
 帰りの遅い姉さんと父さん、逆に夜遅くから出かけていくことの多い僕がいるおかげで、家族が一緒にごはんを食べることはそんなにない。
 あっても、僕と母さんくらいのものだ。
 しかし、それではそんなに会話は発展しない。そもそも、母さんとは最近ケンカ気味なのである。発展したほうがおかしいかもしれない。
「そういえば、勉強の方はどうなの?」
 一つの話題が終わった途端に、今度は話題の矛先がこっちへと向いた。落とした視線をあげると、姉さんが箸を止めずに、目だけをこちらに向けている。
「うん、ぼちぼち、かな」
 不味い話題だ。
 最近はこのことで、母さんとケンカばかりしているのだ。姉さんもそれは知っているはずだ。だとすれば振ったとしか思えない。
「そうそう、慶吾ったらね」
 さっそく母さんがこちらをチラチラと見ながら、身体を乗り出した。
「最近勉強もせずに――」
「してるよ!」
「してないでしょ。参考書なんて開いた形跡もなかったし、大学の資料を取り寄せたりもしてないし」
 痛いところをつかれて、少々参った。
「今は、ネットっていうものがあるんだよ」
 反撃を試みるも、
「どうせ動画でも見てるだけでしょ」
 またもや見透かされ、完全に押し黙った。
 いつも通り、僕の劣勢だ。
「――本当に」
 母さんが言う。そして、視線がこちらを射抜いた。やけにいつもより威圧感があると思ったら、姉さんの目までこちらを向いている。僕はそれに耐えられず、視線を斜めに逃した。
「大学はどうするつもりなの?」
 声が追いかけてくる。
 そこだけが、僕の唯一の反撃のチャンスだった。
「だから、なんで大学に行かないといけないんだ? 確かにやりたいことがあって、勉強しに行くならいいけど、べつそれもないのに役にも立たない受験勉強をして大量の金を払って大学に行く意味が分からない」
「じゃあ、就職でもするの? アテはあるの?」
 もちろんない。
 とても低い可能性で、パン屋の店長に「これからは正式に働いてくれないか」と言われるかもしれないけれど、パン屋を生業とする覚悟がすぐに決まるはずもない。
「ないけど、だから、じっくり考えて――」
「考えようとしてないじゃない」
「考えてるって!」
 やがて、押し問答になってしまった。
 自分が言っていることが、決して褒められたことではないのは知っている。どころか、世間のせの字も知らない若者が口にするような言葉では決してない。
 けれども、どこか自分の心のなかにある譲れない部分が、それに反抗した。思考ともに、身体が熱くなる。
「だいたい――」
 母さんが口を開いた。
 僕も反撃しようと身構えた。
 その時――電話がなった。救世主のようなタイミングだった。母さんが言いかけていた言葉を飲み込み、立ち上がる。その背中が遠ざかっていくのを見て、僕は、ようやく息をついた。それでも、身体から熱は消えない。
「なるほど、いつもこんな感じで――やってるってわけか」
 姉さんが呆れたように言った。僕はさっき主張したことをもう一度繰り返す気には到底なれず、ただ頷いた。奥からは、電話で愛想よく答える母さんの声が聞こえてくる。どうせ、盛況か何かの注文だろう。さっき僕と話していた時とはうってかわった媚びたような口調が癪に障った。
「慶吾」
 突然声をかけられて、
「なに?」
 と返す。自分でも思っていた以上に鋭い声が出て、驚いた。
「それで、いま、なにやってるわけ?」
「え……?」
「だから、いまバイトしてるんでしょ。その他に、ほら、なにかやってないの?」
 言い方は違うが、聞いていることは母さんと一緒だ。
「いまやることを考えてるんだけど」
「それが、母さんはもどかしいんでしょ?」
「でも、卒業したんだから、少しくらい休ませてくれても――」
「もう、二ヶ月は休んだんじゃないの?」
 常識的に考えて、そろそろ動き始める時期よ、と姉さんは言った。その顔が穏やかで、高ぶった心はやがて落ち着いていった。
 そういえば、姉さんにも荒れていた時期があったのを思い出した。
 あれは、確か三年ほど前……つまり、姉さんがちょうど今の僕と同じような状態にあった時だ。姉さんは一浪して大学に入っている。高校を卒業してから、一年勉強していたのを覚えている。
 そんな姉さんは、卒業してから一ヶ月後――つまり五月のある日、家出をしたのだった。『一日、頭を冷やしてくる』そんな置き手紙が残してあり、母さんがやけに心配していたのを覚えている。
「たしかにそうなんだけどさ」
 僕は口ごもった。この心のなかにあるもやもやをどう表現できるだろうか。なかなかはっきりと言葉を口にしない僕に、姉さんは少し笑って言った。
「たぶん、感じてることは分かるよ。私もそうだったし」
 でも、とつなぐ。
 そして、声を潜めて言った。

「慶吾のは、充電期間とかじゃなくて、ただの甘え。この状況に甘んじてるだけ。だから――ちょっと家出して、頭を冷やして来い」

 それは、命令形だった。
「私が、責任を持つから」
 姉さんの姿が、やけに大きく見えた。そして、僕は頷くしかなかった。
 母さんの方をちらりと確認して、姉さんがまた声を潜めた。
「別に一週間とかじゃなくて、一日だけ。今晩だけ」
「行くアテなんてないんだけど」
 僕も何時ぶりかも思い出せないほど久しぶりに、ひそひそと答えた。
「友達……いないの?」
「いるけど、ちょっとさ、うん」
 察したように苦笑された。
「オトコ同士の友情はさっぱりしてて、女ののドロドロしたものとは違うっていつか、自慢してなかった?」
「男も、いろいろとフクザツなんだって」
 まるっきり矛盾したことを答えながら、ともに何年も過ごした友達たちの顔を思い浮かべた。
 これが卒業する前だったなら、何泊でも泊まりに行っただろう。でも、今では彼らと僕とは違う。前に進んでいる人間と、何もしていない人間の差が間に大きく空いてしまっている。それを乗り越えて泊めてくれと言いに行くのは、僕のちっぽけなプライドが許さなかった。
「お金は? バイトしてるんでしょ?」
「ない」
 即答すると、姉さんが目を丸くした。
「なんで?」
「まだ、給料日じゃないし」
「いままでの分は溜まってないの?」
「自転車……買ったからさ」
 この二ヶ月で溜まったお金で、結構発奮してずっと憧れていたブランドのロードバイクを購入したのだった。自転車屋のおじさんと膝を突き合わせながら自分に合うようにカスタマイズし……とやっているうちにいつのまにか、溜まっていた金はすっからかんになっていた。
「慶吾、あんた馬鹿でしょ」
「好きだから、いいんだって」
「自転車なんて漕げればいいじゃん。なんでそんなに高いものを買うのか、ぜんっぜん理解できないけど――まぁ、それはいいとして。どうする?」
 手持ちの三千円で泊まれるような場所があるか、頭を巡らせてみる。
 しかし、何も思い当たらない。こんな田舎の町に安いホテルなんかがあるわけもなく、僕の知っている限りあるのは古い民宿だけだ。しかも、それは高い。とうてい三千円でなんとかなるような場所じゃない。
「あ、姉さんに借りれば――」
「お金なんて、あるわけないじゃない」
 ふと思いついた妙案は、あっさりと拒否された。
 じゃあ、どうしようもないよと肩をすくめると、姉さんが「出来ればこの手は使いたくなかったけど――」と前置きして、衝撃的な一言を口にした。
「彼氏んとこに泊まってく?」
「……はい?」
 なにを言ってるのか、いまいちよく分からない。
「彼氏? ――誰の?」
「私のに決まってるでしょ。つまらないボケはいらないから、それよりそういうことでいい?」
「いやいやいやいや」
 そんな気まずいことなんてやってられるか。
(なんだよ、姉の彼氏の家に泊まりに行く状況って……)
 心のなかでツッコミを入れつつ、
「そこまでしても、いま、家出したほうがいいのか?」
 そう聞くと、
「もちろん」
 姉さんは、そう即答した。
「少なくとも、私にとっては人生を変えるくらい重要なことだったから」
 その目には強い力が宿っていた。
 その時、なにあったのかは知らないが、それでも信じてもいいかもしれない、と思った。
 思ったら次は早い。
「分かった」
 僕は頷いた。

「――家出する」

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