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特別小説

君と空との見つけ方〈1〉

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     《Ⅰ》

「ん……?」
 バイト先を飛び出し、家へと自転車を漕ぎ始めてすぐのこと。僕は視界の左に映った光景を見て、思わず声を漏らした。
 綺麗な夕焼け。いや、朝焼けというべきかもしれない。
 低く這うような山稜に沿って空がやけに赤く輝き、その上に浮かぶ雲の下が真紅に染まっている。少し上に視線をやれば、夜の帳の上に星が散りばめられている。
 ただ、何かがおかしかった。
 ――時間。
 今は夜の〇〇時なのだ。夕焼けはとっくに終わり、朝焼けまではまだまだ時間がある。
 空にその光源らしきものは見当たらない。まだ地平線の下に沈んでいるのだろう。
 そこまで考えた時、ようやく答えにたどりついた。
「月……?」
 僕の知る限り、空に浮かぶ明るいものは、太陽と星と月以外にない。
 時間的に太陽ではなく、明るさ的に星ではないのなら、それは月以外にありえない。
「うぉいっ!」
 次ん瞬間、激しい衝撃とともに僕の身体は宙を舞っていた。何が起こっているのか分からない。ただ、身体が重力に引かれて落ちていくのを感じる。次なる衝撃が身体を襲う前に、僕の目が最後に捉えたものは、低い山並みの作り出す境界から顔を出した真っ赤な円形のものだった。
 ばしゃ、と音が耳元でした。
 口の中に異物が入り込み、反射的に起き上がりながらそれを吐き出す。
 一瞬後に、全身から生暖かい感触が伝わってきた。
(泥……?)
 どうやら、落ちたのは田んぼの中のようだった。
 幸い怪我はない。
 服が大変なことになっているが、それも着替えれば済む話だ。
(あ――自転車は?)
 同じく被害にあったはずの相棒を探すと、おそらくぶつかったらしい電信柱の横にひっくり返っていた。いくつかの破片がその周りに散らばり、カゴが歪んでいる。その中に入れてあった手提げカバンは、盛大に遠くまで吹っ飛ばされていた。
「はぁ……」
 ため息をつきながらも、身体は意外とテキパキ動く。
 自転車を立て、歪んだカゴにバッグを押しこみ、僕はまた自転車にまたがった。サドルとの接触部分から伝わってくる嫌な感触は、この際無視だ。手を振って泥跳ね飛ばしながら、のろのろと漕ぎ始めると、ふと電信柱にぶつかった原因を思い出した。
 今まさに、空で途方も無い存在感を醸し出している――真っ赤な満月。
 夕焼けとも朝焼けとも間違えるような光量を放ちながら、ででんと空に居座っている。
「なんだ、これ?」
 こんな満月は見たことがない。
 そもそも月自体意識して見たことはないけれど、少なくとも僕の知っている満月というのは白くて中でうさぎが餅を付いているはずだ。これではまるでうさぎが炎の中にいるみたいになっている。
 思わず、ペダルを漕ぐ足を止めた。走りながら見るというミスを、二度するわけにはいかない。濡れた髪から滴り落ちる泥水を払いのけながら、足を地面に着き、くだんの赤い満月をまっすぐに見上げる。
 もしかして――
「UFO……」
 そんな言葉を何の気なしにつぶやいた時、くすりと小さな笑い声がすぐ近くで聞こえた。それが何かを判断する前に、身体がビクッと反応する。反射的に声のした方向を振り返る。
 そこにいたのは一人の薄い綿のパーカーを羽織った、一人の若い女性だった。全体的に線が細く、よく見ると手には大きなスケッチブックを抱えていた。
 何がツボだったのか、クスクスと笑いながら手を口に当てている。それは、面白いというよりは、嬉しくて仕方がないといった風な笑い方だ。
 いたのが普通の人だと分かった瞬間、たまらなく今の格好が恥ずかしくなり、僕はすぐに足で地面を蹴った。ペダルに足を載せ、漕ぎだす。泥水が蒸発しながら気化熱を奪い、風がひんやりと涼しいように感じられた。
 後ろから、小さな声が追いかけてきたけれど、風に流されていった。
 それを聞き返しに行く勇気は恥ずかしさに負け、僕は自転車を漕ぐ足を強めたのだった。

 家に着くと、
「お帰り、もう晩ご飯食べるよ」
 というお母さんの声で迎えられた。レジの仕事の時はいつもこのパターンだ。仕込みの場合は、早めの晩ご飯を食べてからバイトに行くことになる。
「うん」
 小さく答えて、荷物を置きに一度自分の部屋に戻った。
 家に帰ったとたん、なんだかまとわりつくような嫌な空気が自分を覆っている。首を振ってそれをなんとか振り払おうとする。しかし、頭がくらくらしただけで、何も変わらなかった。
 ふらつく足でそのままベッドに倒れ込み、ボーっとする。
(これから、どうしようかな……)
 高校を卒業してから数ヶ月、ずっと頭の中で巡っていた言葉が、また再生された。
 友達の大部分は進学した。ずっと一緒に部活をやっていた奴らだ。三年生のギリギリまで一緒に全国大会を目指して練習をして――それが終わったとたん、突然みんな勉強を始めた。
 僕にはついていけなかった。
 そもそも、進学のことさえ考えていなかった。
 そして、チームメイトが、友達がどんどんと進学していく中、僕は一人取り残されていたのだった。
「お前、進学しないで、どうすんの?」
 卒業式の後、友達にそう聞かれ、
「まぁ……、焦って進学する必要もないと思ってさ。一年間いろんなことをして、進学するかどうか決めるよ。人生、長いしな!」
 なんてことを答えて、わははと豪快に笑ってみせたのを思い出す。
 あれから二ヶ月が立って、夢見る大学一年生として毎日を過ごしている人と、なにも前が見えず立ち止まったままの僕。その差は、歴然だった。
(……何やってんだ、僕)
 そう、形式だけでも呟いてみる。
 そこから何が生まれるわけでもないのに。
「慶吾、早くして!」
 ドアがノックされ、そんなお母さんの声が聞こえてきた。
「寝てるの?」
 繰り返される声に、
「はいはい、いま行きますよ……」
 と力ない声を返して、のそりと起き上がる。
 のろのろとドアを開け、キッチンの方へ歩き出そうとした時、
「ただいまー」
 と妙に明るい声がして、玄関のドアががちゃりと開いた。
 姉さんだった。
「沙苗!」
 お母さんの顔がぱっと輝く。
 これからどうするかも決めずに家で食いつぶしている僕に比べ、三歳年上の姉さんは地元のそこそこ有名な大学に通っている。文系だが、そこそこしっかり勉強をしているようで、こんな時間に帰ってくることも珍しい。
「どうしたの? こんなに時間に」
「別にどうもしないけどさ、なんとなく今日は早く帰りたくなったから――」
 姉さんが適当な答えを返して、靴を脱いだ。
 奥から覗いている僕に気づくと、
「あ、慶吾。生きてた?」
 失礼なことを口走る。
「おかげさまで」
 口を少し曲げてそんな答えを返すと、姉さんは手を少し上げて軽く笑った。

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