スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←ご連絡 →OTM間章1「第十一話」更新!
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  • 【ご連絡】へ
  • 【OTM間章1「第十一話」更新!】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

On the Top of That Mountain(長篇)《連載中》

On the Top of That Mountain《間章1》【第十一話】

 ←ご連絡 →OTM間章1「第十一話」更新!
《11》


 家の前に、浴衣を着た面々が出揃っていた。
 ――僕、姉さん、浦川、そしてまとめてチビ達。
 姉さんは全員の浴衣の最終チェックをして、そして号令をかけた。
「よし、行こう!」
 それを待っていたかのように、チビ達が歓声を上げて走りだす。履きなれないはずの草履を苦ともしていない。
「あ、ちょっと……」
「まぁ、どうせすぐに飽きて帰ってくるから」
 声をかけようとした浦川を、姉さんが軽く制する。
「そうですか……?」
「うん、そんなもんよ。チビって」
 そう言って、姉さんが帯に挟んだ団扇を取り出す。うちのどこにあったのか、ちょっと上等そうな紙に筆で金魚の絵が描かれていて涼やかだ。
 それをパタパタと仰ぎながら、姉さんが歩き出すのに合わせて僕達の歩をすすめた。
 すぐに飽きて帰ってくると姉さんが言ったチビ達は一向に戻ってくる気配を見せず、姉さんと浦川が大学について話しているのを聞きながら歩いていると、やがて浴衣を着たとすれ違ったりすることが多くなった。
 それはつまり、あの忌まわしき夏祭りの会場が近づいているということだ。数年ぶりにこれに参加する原因となった人たちを、ちらりと見る。
 姉さんは今日の朝に出していた、青に黄色い蝶が舞う柄の浴衣を、着こなしている。
 一方でその横を歩く浦川は、白に赤や紫の朝顔が咲き乱れる柄の浴衣だ。それに青の帯を締め、髪は高い位置でポニーにして、二筋顔の横に垂らしている。
 先程からあまりみないようにしていたのだが、一度目がいってしまうと、中々離れなくなる。
 それほどに、浦川の印象は浴衣を着ると変わった。
 一見地味なように感じていた外見は、艶やかになりどこかしっとりとした雰囲気をまとっている。ナイフを持って走ってきた時と比べると、大違いだ。
 もしかしたら、浴衣を着ている人なら誰でも綺麗になったように感じてしまうのかもしれない。
 ――これが、浴衣マジックか。
 どこかで聞いたような言葉を心のなかでつぶやくと、なんだか納得できるような気がした。

          *

 夏祭り当日の朝。
 浴衣を引っ張りだしていた姉さんと僕のところに、予定よりもずいぶんと早く浦川とチビ達がやってきていた。
 どうやら、
「その……浴衣の着付けが」 
 ということらしい。
 チビ達二人はすでに小さい浴衣を着てはしゃぎまわっていたが、つまるところ自分の浴衣が綺麗に着れないのだそうだ。
 恥ずかしそうにしながらそう説明した浦川を、姉さんは歓迎し、その代わりに僕は部屋を追い出されたのだった。
 曰く、アンタのは一瞬でできる。紗慧ちゃんの着付けが終わるまで、チビッ子たちの相手をしておいて。――だそうだ。
 おかげで僕は、ずいぶんと長い間、疲れを知らずに遊びまわるチビッ子を常に監視し、時に遊び、と慣れないことをする羽目になったのだった。
 こいつらと同じくらいの年だったとき、こんなに元気だったかな……。
 そんなことを思いながら、裏庭を走り回る二人をぼーっと見つめる。すると、突然男の子の方が走ってきて、僕の膝を叩いた。
「タッチー、鬼!」
 いつのまにか、鬼ごっこに巻き込まれていたらしい。
「いや、ちょっと……」
 僕は疲れているから、とつなげようとしたときには時すでに遅し。
 二人はきゃあきゃあ言いながら、僕から逃げ始めていた。思わず目がうつろになる。
 しかし、このまま無視するわけにもいかない。しかたなく少し屈伸をしたあと、僕は走り出した。
 じりじりと二人いっぺんに庭の隅に追いつめ、手を伸ばす。さっそく逃げようとした男の方を――
「タッチ!」
 ……我ながら、ずいぶんと大人げない。年長者として、もう少しあるべき姿を見せるべきだった。そう反省した瞬間、
「タッチ返しは、なしー!」
 どこかで聞いた言葉返ってきた。
 そういえば、小学生のころとかはよくこれで喧嘩してたな。
 正直ムカッとしたが、ここでこらえるのが年長者というもの。それなら、と女の子の方に手を伸ばす。
「タッチ!」
「バリアー!」
 手をクロスにして、そう返される。
 なら、どうしろと?
 呆然と立ち尽くす僕。それを見ながら、なにが面白いのか二人はまた笑い声をあげながら逃げ出した。

         *

 結局、二人とも抱え上げるという技を使って、その鬼ごっこは終わりを告げた。
 我ながら、よく途中でやめなかったものだと思う。これは表彰されてもおかしくない。
 あの後もさんざん逃げ回るチビ達に手を焼かされた僕は、疲れ果てて庭に座っていた。疲れを知らない二人は、またなにか違う遊びを繰り出して、楽しそうに遊んでいる。
 浦川の着付けはもう終わっただろうか。……いや、浦川が終わっても、そのままついでに姉さんの着付けまでやってしまうつもりだろう。
 つまり、まだまだ待たなくてはならないということだ。
 その時、ふと一つの疑問が頭に浮かびあがった。なぜ浦川は家で浴衣を着てこれなかったのだろう。
 一人で着れないにしても、母親か誰かに頼めばよかったのではないか?
「そういえば、今日、お母さんは?」
 何気なく聞くと、遊ぶ声とともに、こんな返事が返ってきた。
 ――ママは、しごと!
 なるほど、と納得する。それは、着付けしてくれる人がいないわけだ。

 やがて、正午をしらせる鐘が鳴って、更にしばらくすると姉さんがやってきた。
「昼ごはんにするよー」
 見ると、まだ着替えていない。なぜだろう。
 聞くと、
「こんなに早くから着て、汚れたら大変じゃない」
 と言う。
 ならこの時間は――という疑問は、先回りして答えた姉さんによって封じられた。
「今は、ちょっと練習してたの」
 練習が必要だったとはしらなかった。
 僕は肩をすくめた。

 家の中に入っていくと、キッチンで浦川が鍋を箸でかき混ぜていた。もちろん、彼女もまだ浴衣には着替えていない。
 見ると、まな板の上に、綺麗にそろえて切られた、キュウリとトマト、それに卵が置かれていた。
「いま、ソーメン作ってもらってるから、覚治机の上を準備してて。私はちょっと向こうの片づけをしてくるから」
 指令に従い、人数分の器を出す。
 チビ達に手を洗う場所を教えたあと、箸と麺つゆを準備した。
 食器の数が、今日はいつもと違うことを、如実に表していた。
  



関連記事


  • 【ご連絡】へ
  • 【OTM間章1「第十一話」更新!】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ご連絡】へ
  • 【OTM間章1「第十一話」更新!】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。