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On the Top of That Mountain(長篇)《連載中》

On the Top of That Mountain《間章1》【第九話】

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《9》


 ドアを開けると、案の定そこにいたのは浦川だった。
「昨日は有難うございました。服、返しに来ました」
 少し固い口調でそう言って、頭をさげた。今日はチビ達は引き連れていない。
「気にしないで」
 姉さんが差し出された紙袋を受け取る。
「どうせ、覚治が悪いんだから」
 そう言えば、昨日の晩に事情を説明した時、姉さんはさかんにお前が悪いと繰り返していたのだった。
 何が悪いのだと聞くと、女の子との秘密を覗こうとするんじゃないこの変態、とのたまう。
 なら、男子の秘密は覗いてもいいのかと言い返すと、屁理屈だと一蹴された。
「いえ、こちらこそ、たくさん迷惑をかけて……」
 浦川が苦笑気味に言う。こちらはみない。
「せっかく来たんだし、上がって来なよ」
 という姉さんの提案に、浦川は目を伏せて首を軽く横に振った。
「すみません。これ以上ご迷惑をおかけするわけにもいきませんから」
 ふつうの人間なら、ここで何か事情があるのだと気付きそうなものだが、そこはガサツで通っている姉さんのことだ。
「全然、迷惑なんかにならないから。上がって上がって!」
 そう言って大きく手を振る。
 まだ躊躇する浦川に、姉さんはニヤッと笑って、
「覚治もなにか話したそうな顔をしてるし」
 と、意味有りげな視線を送っていた。
 いきなりなにを言い出すんだ。確かに聞きたいことはあったけど、それを実際に口にだすかは別だ。
 浦川が困ったように、こちらをちらりと見る。
 僕は苦笑いをして、
「まぁ、上がって来なよ」
 と軽く言った。
 浦川じはようやく頷いた。

 招き入れたはいいものの、姉さんと僕は食べかけのソーメンのことを完全に忘れていた。
「いやあ、完全に忘れてて。ごめん、いま食べるから」
 姉さんがあっけらかんとそう言う。
 その横で僕は気まずい顔をしながら、急いでソーメンをかきこんだ。ツユの中につけていた麺は伸びていて美味しくなかい。
「いえ、ごゆっくり」
 浦川はほっと緩んだ顔で言った。さすがに呆れたのだろう。
「あ、どうぞ、座って。お茶でも出すし」
 冷蔵庫の方に向かう姉さんに浦川は、
「あ、はい。お願いします」
 と丁重に頭を下げる。
 ナイフを持って走ってきたと思ったら、今度は気を使いすぎるほどの使う。不思議な奴だ。
 一緒に泥だらけになった昨日、いろいろと聞きたいことはあると思うけどとは言ったけれど、結局話しなんかは何もしなかった。いや、そんなものだろう。よほど社交上手な人でもなければ、そんなに初対面の人と話をしたりしない。仮に話すことがあったとしても、極力話さないように務める。
 それが現代人ってものだろう。
「…………」
 僕もその例に漏れず、黙りこくったままソーメンを啜っていた。
 一方で姉さんはものすごい勢いで箸を動かしながら、どんどんとしゃべる。こちらに帰ってきてから話す相手が基本的に僕と蝉しかいない環境にいたからだろうか。それとも、大学生は元来これくらいしゃべるものなのだろうか。
 とにかく弾丸を飛ばしまくる姉さんに、浦川は丁寧な受け答えをしていた。
 困っている様子でもない。むしろ……打ち解けている?
 よくわからないが、状況を見るかぎり、姉さんと浦川は気が合うようだった。なぜか、全くわからない。女の友情の芽生え方についてじゃまるで理解出来ない。複雑なのか単純なのか、どっちなのだろう。よく言う、「女心は複雑」と「女って意外と単純なもの」の矛盾問題だ。
 内容は、いろいろと姉さんの大学での話や、いろんな噂。ある意味どうでもいいとも言えるようなことで、盛り上がっている。
 僕は、またもや立場を失ってしまった。
 女子同士で楽しそうに話しているのに首を突っ込むこともできず、かといって席をたつこともできず、ただ器に残ったソーメンを見つめながらそれを食べつづけた。これまで生きてきて、ここまでソーメンのことをしっかりと見たのは初めてだったかもしれない。ソーメンは、白くて細い。
「浦川さんは、このあたりに住んでるの?」
 話題がまた変わり、ふとそんな会話が耳に飛び込んでくる。
「えっと、この家の前の道をずっと行ったところにある田んぼ地帯にあるんですけど」
「あそこらへんって、家とかあったっけ?」
「少し道を折れて山の方へ入っていくと、ありますよ。少しですけど」
 ふうん、と姉さんが口を尖らせた。
「私達は、ここに越してきてまだ数年なんだけどさ、浦川さんはずっとここで?」
「いえ、生まれは違うんですけど、私が生まれてすぐにここに引っ越してきたんです」
「へぇ……っていうか、不便だよね、ここ」
「コンビニないですしね……でも、慣れたらぜんぜん大丈夫ですよ」
「あ、そう? 大学に行っててで下宿してるから、全然こっちにこなくてさ。覚治なんかここにもう何年もいるけど、まだビビってるよ」
 ビビってるってなんだよ。
 確かに来た時には、イナカという言葉に圧倒されていたけれど、それでも一年も経てば慣れる。
「いや、ビビってないって。ていうか、何にビビってるんだよ」
 控えめにツッコミを入れる。
「ビビってるじゃん」
「だから、何に?」
 訳知り顔で行ってくる姉さんに、言い返す。
 ちらりと目の端にこちらの話を聞いている浦川が写った。
 姉さんはきざったらしく、指をたてて振った。そして、それを倒して僕を指さす。決めポーズのつもりだろうか。
「――盆踊り」
 姉さんが、タメをたっぷりつくってからそう言い放つ。
 さらに一泊おいて、
「あ……」
 僕の間抜けな声が、部屋に響いた。
 この地域では、毎年八月。家から少し離れたところにある神社の境内で、夏祭りと盆踊り大会が行われる。そんなに大きなものでないが、それでも盛り上がるといえば盛り上がる。
「いやさあ、ここに越してきて一年目の時に、回覧板ってあるじゃん、あれを見て、私と覚治で夏祭りに行ったんだけど」
 姉さんがさも楽しそうに、浦川に話しだす。
「ちょっと待て、それは――」
「すみません、ちょっと黙って下さい」
 名誉を守ろうとした言葉は、予想外だった浦川によって止められた。
「え……?」
「続けて下さい」
「ああ、それでさ。せっかくだから二人で浴衣着てさ、行ったわけ。面白そうだったし、なんか無料のお菓子券とかついてたからさ。その時に、まぁ横で盆踊りやってたんだけど、あれって結構大きめのマイクで音楽流してるでしょ、まず覚治があれにビビってさ」
 僕の名誉のために付け加えると、実際あれは大きな音にビビったわけではない。そこに流れていた、ポケモン音頭とかいう歌の歌詞にビビっていたのだ。
 しかし、そんな僕の心の中のつぶやきを察するわけもなく姉さんの話は続く。
「それで、いろいろとお菓子とかも食べた後、さぁ、踊ろうかっていったんだけど覚治はずっと首を振ってさ」
 そう。
 僕は子供心ながら、ポケモン音頭の歌詞に合わせて踊ることを拒否したのだった。
「それで、まぁ嫌ならいいけど、ってほっといんたんだけどそれが、近くのおばさんに捕まってさ。無理やり踊らされたわけ」
 踊らないと幽霊がたたりに来るよ、とむしろその顔だけでたたられそうなおばさんに、無理やり踊りの輪に押し込まれた時のことはよく覚えている。おばさんとしては、ちょっと恥ずかしさで尻込みしている子どもの背中を押してあげたつもりなのだろうが、僕にとっては脅されているようにしか感じなかった。
「しかも、その踊りがなんか良かったらしくて、あの、踊りを指導するおばちゃんがいるじゃん? あの人が覚治を新しい踊りを始めるときのレクチャーにつかったりしてさ。それで、家に帰ったら『僕、もう踊らない』って」
 あれは地獄だった。
 盆踊りが終わった瞬間に、浴衣の裾をバタバタさせながら、走って家に帰ったのを覚えている。あれ以来、盆踊りどころか夏祭りにさえ顔を出していない。昔の嫌な記憶を思い出させられ、テンションが下がった僕の耳に二つの笑い声が届いた。
 ん? 二つ?
 笑ったのは姉さんと、浦川だった。
 いや、別に浦川が笑ったのが意外なわけではない。別に彼女は寡黙キャラでもなんでもないし、まだ会って間もない僕が笑うのが珍しいというのもおかしな話だろう。しかし、笑っていた時の浦川の顔は――本当にその一瞬だけだけれど――なにかから解き放たれたようだった。とてつもないストレスから解放されたような、肩から重荷が降りたような。
 それを見ていると、なんだか、嫌な思い出もどうでも良くなった。
「あ、そうだ。行く?」
 笑いがようやく収まると、姉さんが僕の方を向いて言った。
「へ?」
 変なことを考えていたからか、答えがおかしくなる。
「あ、えっと、なに?」
「だから、行く?」
 姉さんは眉をふっと吊り上げ、ゆっくりと、
「盆踊り」
「来週ですよ」
 そこでなぜか浦川も口を挟んでくる。
「いや……いい」
 僕はがっくりと肩を落とした。  



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