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特別小説

背負う感覚、背負われる感覚 《3》

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朝起きると、少し頭が痛かった。実際に飲んだわけでもないのに、なんでこんなに影響があるんだろう。そこまで飲んだ経験はないにしても、ここまで弱いと逆に自信を失う。まぁ……それでも、寝た彼女よりはマシだと言うところが、慰めかもしれない。
 食欲が湧かなかったので、一杯のコーヒーを啜ると、妙に頭が冴えてきた。昨日のことが次々と頭に浮かんで、逆に昨日の自分がどれだけ頭が働いていなかったのかを思い知る。
 そして――、
「なんだ、平池さんって、紗枝じゃん」
 すぐに真実へとたどり着いた。
 初めて会った時の、あの思い出すような表情。『何か思い出さなかった?』そう電話で言ったこと。手紙について聞いてきたこと。足をくじきなれていると言ったこと。初対面の人におんぶをせがんできたこと。
 全て説明できる。
 外見は確かに変わっていたが、紗枝が成長したと意識すれば別に大きな変化じゃない。大学が一緒と言うことも、普通にありえる。
 はあ、とちょっと感慨深いため息をつき、これからどうしようと思った。気付いたということは、常に「それから――」という問題を引き起こす。
「もしもし――」
 とりあえずは、彼女へ電話をかけることにした。
 いままでずっと避けてきたことも、いざ直面するとそこまで気にもならない。
 電話は電源が切られているらしく、『話があるので夕方に初めてあった場所で』とメッセージを残した。
 講義には全然集中が出来なかった。
 何かというと、彼女が今まで気付いていたにもかかわらず自分が紗枝であることを言わなかった、ということがどうしても気になってしょうがなかったのだ。そしてもう一つ、あの手紙が既に読まれたのかどうか、という点がとても気になっていた。
 どちらも直接聞いて見ないと分からないうえに、聞きにくいことで、僕の頭の中ではどうやって自然にその二つを聞き出すかについて案がぐるぐると回っていた。しかし、いくら考えても無限のループで、思考は元のところへと戻っていく。
 結局何一つ結論を見出せないまま、僕は約束の場所へと向かった。
 丁度心地よいほどの風が吹く、高い空の下を歩いていくと、昨日よりもさらに白っぽくなった彼女が待っていた。いや、もう紗枝と呼ぶべきだろうか。
「やぁ、久しぶり」
 少し深い意味をこめて、そう挨拶する。
 すると紗枝はそれを察したのか、
「久しぶりだね」
 少しの間の後、そう返してきた。その顔には喜んでいるような、悲しんでいるような、怒っているような……そんな複雑な表情が浮かんでいた。
 最後の一歩を紗枝から三歩くらいのところで止め、そのまま立って向かい合う。
「なんで、最初会った時に言ってくれなかったんだ?」
 自然と出たその一言に、紗枝はピクリと反応した。その表情を怒りが覆っていく。覚悟していたことだが、それでも
「…………連絡、待ってたよ。ずっと」
 俯いた紗枝が、少しずつ区切って小声で言う。その言葉は胸の中にすっと入り込んできて、自責の念をわき起こした。
「いや……その、それは――」 
 理由があまりにもバカらしくて、説明できなかった。そして、そのバカらしさに甘えて何もしてこなかった自分が、一番バカらしかった。
「ごめん」 
 頭を下げる。
 それに対する答えはなく、
「初めて会った時、気付かなかった。電話かけたときに嘘ついた」
 嵐の前の静けさとでも言うように、淡々と事実が述べられていく。
「いや、それは紗枝が凄く変わっていたからで――」
 未練がましく口からすべりでた弁解の言葉は、紗枝に遮られる。
「まだ最初の分からなかったのは許そうと思ってた。でも、変わったのは、一太君が強くなれとか泣くなとかずっと言ってたからだし――。いろいろとヒント出したのに、全然気付かないし、再会して初めて一緒に出かけたのに、ラーメンってなに!?」
 後半で急に話が飛んだ。
「あ……ええと」
 ただの冗談です。そう口に出せる雰囲気ではなかった。
 紗枝は少しずつ声を荒げる。
「ラーメンの時は、わざわざ昔みたいな格好をしてたのに全然何も言わないし、手紙のことも――」
 そこで、紗枝は不意に顔を赤らめた。
 今度は急に口調が弱々しくなって、
「あ……、その、手紙読んだ?」
「いや、読んでない」
 即答。あれは読むに読まれず捨てるに捨てられず、実家の自室の机の奥底にしまいこんであるはずだ。
 紗枝は少しがっかりしたような、でも安心したような表情になって、
「良かった……」
 ほっとしたように息をついた。
「良かったって、何が書いてあったんだ?」
 少し空気が変わって話しやすくなり、控えめに聞いてみる。
 しかし、紗枝はそれに過剰反応し、
「な、なんでもない! 今度回収に行くからそれまで絶対にみたら駄目だよ!」
 焦ったように、そう口にした。
 これだけ焦る内容。ちょっと興味がわいてくる。
「今週末にでも帰って見てみようかな……」
「駄目っ!!」
 紗枝が涙目になって叫ぶので、さすがにやめておくことにする。頷いてやると、紗枝は口を尖らせ、
「それよりも一太くんの手紙の話!」
 急に話題を切り替えた。
「ああ、僕の手紙の話――、っていやいや、それこそ止めてくれよ! ……まさか読んでないよな」
 あの単語が頭に浮かんで、顔を紗枝に向けられなくなる。
「読んだから!!」
 そう返って来る紗枝の声は、やけに恥ずかしそうで――これは絶対に誤解しているに違いない。別に、あの単語はたまたまそのチョイスが出てきただけで、他意は特になく――。読まれたという事実に頭がヒートアップし、逆に開き直った。
「なら、読んでやる――!」
 がばっと顔を上げて、紗枝の目を見つめた。
「……え?」
 紗枝は虚勢をそがれたようで、少し呆けたように見つめかえしてきた。
「紗枝からの手紙、絶対に読んでやる。確か、再会したらお互いに読む約束だったよな?」
「だから、駄目――っ!」
 今度は、手を大きく振りながら、紗枝がこちらに向かって走ってきた。
 そして例の如く、転ぶ。
 大丈夫かと声をかける前に、うう、とうなって立ち上がろうとした紗枝はそのまま顔をしかめた。そして座り込む。
「……挫いた」
「またかよ」
 同じ場所だけに、癖がついていたのかもしれない。
 ウエストポーチから今日来る前にドラッグストアで買った『あるもの』を出し、それを使うために かがみこんだ。
 やっぱり、根本的なところは何も変わっていない。そう思ってなんだか安心した。
 けれど、紗枝は色々と変わった。僕が何も出来ずにずっと足踏みしていた間も、紗枝はすこしずつ前に進んでいたのだろう。
「ほれ」
 足に巻かれた『あるもの』――サポーターを見て、紗枝が目を丸くした。
 そんな彼女に向かって笑ってみせる。これで、僕もなにかが変わったと言えるだろうか。
 紗枝はこれまでにないほどにっこりと笑って、
「――おんぶ」
 恥ずかしいと思いつつも、少し嬉しく思ったのは秘密だ。
 夕焼け道、紗枝を背負って歩きながら、凍結していた僕の時間がようやく流れ出したような気がした。さっそくは、今週末。実家に帰って手紙を読むことにしよう。
 そんなことを考えながら、歩く。
 そしてやはり寝た紗枝の顔に、今度こそは落書きをしてやろうと思ったのだった。





 完

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