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特別小説

背負う感覚、背負われる感覚 《2》

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それから三日後、彼女から電話が来た。開口一番なにか思い出さなかった? と聞かれ、おもわず頷きそうになったものの、いいえと答えた。べつに彼女に関して何かを思い出したわけじゃない。なにかおごると言うので、ぜひラーメン屋に行きましょう、と言った。半分冗談だったのだが、いいというので、次の日の晩御飯にラーメンをおごってもらうことになったのだった。
 足は比較的すぐに治ったようで、昔から慣れてるから、と彼女は電話越しに笑っていた。
「なんでラーメンなの?」
 次の日。出会って一番、彼女はそう言った。四日前とは打って変って、やたらと白を基調にしたふわふわとした格好になっている。前回のジーパンはどうしたんだ、と思った。
「いや、なんか美味しいじゃないですか」
 いつのまにか敬語を使うのに慣れてしまっていた。いまさら変えるのもめんどくさいと思って、そのままおいておく。
「そういうもの?」
 彼女がちょっとがっかりしたような顔をしていった。
「そういうものです」 
 ちょっと強引に言い切る。彼女は悲しそうな顔をしたまま、分かった、と呟いた。
 ラーメン屋に、大学生くらいの男女が来る確率、というのはどれくらいのものだろうか。実際どこまでかは知らないけど、その日のそのラーメン屋では僕達は果てしなく浮いていた。おっさんしかいない。しかもラーメン屋と言いつつ、半分居酒屋のようなところで、店内に入るとアルコールの香りがした。よくこんなところを選んだな、と感心した。
 注文すると、これでもかというほどに早くラーメンは出てきた。事前に準備してあったとしか思えない。軽く手を合わせて、彼女にお礼をいい、ラーメンに手を伸ばした。僕が大盛りチャーシューを食べる横で、彼女は塩ラーメンを啜っていた。
 しばらくの間、面を啜る音だけが僕達の間で行き交った。ラーメンはそこそこ美味しく、僕が食べるのに夢中になる中、急に彼女が視線をラーメンから僕に移した。
「ねぇ、その……何か思い出さない?」
 そう、電話と同じことを同じような口調で彼女が口にした。
「いえ……特に何も。どうかしましたか?」
 麺を飲み込みながら、そう答える。
「そりゃあ、どうかしたから聞いてるんだけどね。ええと……ほら」
 彼女は急に俯いて、小声で、
「……手紙、とか」
 手紙?
「あ、いや……その」
 思わず否定の言葉を口にしようとして、詰まってしまう。
 こっそり一人で思い出しても恥ずかしくて情けない話なのに、人前で思い出すなんてもはや拷問に近い。心を静める為にラーメンをかきこみ、スープをぐっと飲んだ。
「あ……心当たりあるんだ」
 しかし、彼女は凄く嬉しそうな声で攻撃を続けた。
「ねぇ、どんなの?」
 身を乗り出してくる。
「いえ……大したことでは」
「ふうん――で、どんなの、どんなの?」
 彼女は畳み掛けるように続けた。
 しかし、別に言う義理はない。ゆっくりと首を横に振ると、彼女は不満そうに口を尖らせた。
「分かった。とりあえず思い出しはしたんだね」
「……しましたけど、なんでそれにそんなに拘るんですか?」
 彼女は急に真剣な目つきになって、
「なんでだと思う?」
「知りませんよ」
 そう即答する。
 彼女は、真剣な目つきのまま視線を合わせてきた。睨むように鋭く、懐柔するようにやさしく、何かを掘り起こそうとでもするかのように。
「見つめても何もでませんよ」
 ちょっと茶化して、そのまま目をそらした。視界の隅で彼女がテーブルにすねたように突っ伏した。
 いつのまにか、目の前のラーメンはスープまでなくなっている。彼女のも同様だ。
 ここの事は、またいつか謝るとして、一旦店を出ようかと思った。これ以上思い出したくないと言うこともあるし、彼女の様子もどこかおかしい。
「平池さん、そろそろ出ませんか?」
 腕時計を確認すると、既に八時を回っている。
「家まで送りますから」
 しかし、返事はない。突っ伏している彼女を見ると、小さな寝息を立てていた。寝不足かと思ったが、よく見ると顔が赤い。まさかとは思うが、時間が遅くなりどんどんと強くなってきている気化したアルコールに酔ったとでも言うのだろうか。
 肩を掴んで揺さぶってみると、
「ふぁい?」
 焦点がおぼつかない目で、間抜けな声を出した。ますます出会ったときからのイメージが崩れていく。
「歩けますか?」
 この前も言ったような台詞を投げかけると、
「無理、おんぶ」
 同じ答えが短縮されて返ってきた。
 はぁ、とため息をつきつつ、でもどこかうれしく感じている自分がいた。結局ラーメン代を全て支払い、彼女を背負って店を出ると、ちょっと冷たい空気が頭を冷やした。僕自身も、ちょっと酔っていたのかもしれない。
 夜の街は、音に溢れていた。色々な店から漏れる音楽や話し声。道を行き交う人々の立てる音。電車のホームへと到着する音。駅から人が吐き出される音。そんな音に混じって、背中から小さな寝言が聞こえた。
「……一太君」
 明らかに寝言だと分かっていたのに、反射で「はい」と答えてしまった。
「私ね……強くなったでしょ?」
 寝言であるはすなのに、その言葉は明らかに僕へと向けられていた。秋の風で冴えた頭に、一つの可能性が浮かび上がる。しかし、僕はそれを頭の中でブロックした。意識から切り離す。
 大学からよりも、更に遠い道のりをまた彼女を背負って歩いた。
 いつのまにか酔っていたからか、身体の奥からだんだんと熱くなってくる。そして例のボロアパートに着いた時には、長い距離を歩いた疲れもあいまって、頭が完全に働かなくなってしまっていた。正直、半分眠りかけだ。
 この前教えてもらった部屋の前で、
「着きましたよ」
 まさかまた背負うことになるとは思わなかったな、とか考えながら四日前とまったく同じ台詞を彼女に投げかける。
「ん……」
 彼女がもぞもぞと身体を動かして、ちいさく頷いて見せた。腕に抱えていた小さなバッグを探る彼女を尻目に、腕時計を確認すると既に十時を回っている。
「ありがと」
 鍵を探し当てたらしく、ドアのノブへと手をかける彼女に、
「どういたしまして」
 そう声をかけ、背中を向けた。
「手紙……読んだよ」 
 後ろから小さな呟き声が聞こえた。でも、その内容を把握するほど頭が働くわけでもなく、僕は急いで家へと向かった。


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