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On the Top of That Mountain(長篇)《連載中》

On the Top of That Mountain《間章1》【第五話】

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《5》


 目の前でパニックになり、ナイフを振り回す人が現れた時、どのように人は行動するだろうか。
 ――僕の場合は、単純だった。
 とりあえず、逃げよう。とっさに頭に浮かんだ考えはそれで、僕にはそれをそのまま実行するほどの時間しか残されていなかったのだ。
 くるりと背を向けて走りだそうとしたものの、随分とややこしく絡まりあった下草に足を取られ、頭上すれすれまで伸びる枝に頭をぶつけ、身体を痛めるばかりで中々前に進まない。
「待て――っ!」
 後ろからナイフ少女の声が聞こえてきた。
 マジかよ。
 まさか、追いかけてくるつもりなのか。それが、ますます僕の頭の中にあった命令を強化させ、僕は這い出るようにして木のトンネルを抜けて外へと飛び出した。
 ここに何度も来ているに違いないナイフ少女とは、当然そのスピードに歴然の差がある。後ろから、すぐに飛び出してきた気配を感じ、僕は必死に地面を蹴った。道路に出たら負けるはずがない。仮にも男子と女子だ。
 しかし、足は前に進まなかった。
 足の下にしっかりとした地面はなく、代わりに妙に柔らかく温かい感触が足を靴ごとに包んだ。これは……泥?
 身動きが取れないことが分かり、ようやく立ち止まって状況を把握する。僕は田んぼの中に突っ込んでしまっていたのだった。
 しまった! 
 このトンネルを抜けた先が田んぼであることを、完全に忘れていた。
 しかし、そう思った時には時すでに遅く、僕の足はどんどん田んぼの底に沈み始めていた。決死の思いで抜き出そうとするものの、泥はものすごい圧力で僕の足を抑えつけ、抜こうとした反動でむしろ倒れこんでしまう。まだ、青い稲穂を数本巻き込んで田んぼの端に尻をついた。すぐに、程良く温まった泥の感触がズボンを通して伝わってきた。
「うわっ」
 いままで経験したことのない、なんとも言えない感触ようやく声が出る。
 その時だった。
「待て――っ! あ、違う、待って下さい――!!」
 そう僕と同じ道を通って、外に飛び出してきた奴がいた。
 言うまでもなく、ナイフ少女だ。だが、その手にはもうナイフは握られていない。さすがにあぶないと思って、置いてきたのだろうか。さっきまで感じていた「逃げよう」とう感情を完全に忘れ、そんな呑気なことを考えていられたのは、その一瞬後までだった。
 端的に言うと、ナイフ少女(正確にはいまは違うが)は、ほぼ僕と同じ末路たどった。ただ少しだけ違ったのは、その下敷きになってなおさら大きな被害を受けた、僕という存在がいたかどうかだけだ。
「うわっ、わわ――っ!」
 少女はそんな奇声を上げながら、田んぼに足を突っ込み、そのまま抜こうとした反動と共に僕の上に倒れこんだ。僕は、背中まで倒れこみ、頭のすぐ近くに泥があるという、いままでに感じるとさえ想像していなかったような、恐怖を味わうことになった。
「ご、ごめんなさい!」
 少女が悲痛な声を上げる。
 そして、なんとかして起き上がろうとして、今度は僕の足に引っかかって転倒した。
 ばっちゃーん、というマンガにでも出てきそうな音が響き、泥が飛び散ってついに僕の顔に付着する。思いの外匂いはしなかったが、不快なことには何の代わりもなかった。
「ご、ごめん!」
 しかしなぜか僕まで謝ってしまった。混乱している証拠だ。落ち着かなければ。
「その、とりあえず、なんとかして上からどいてくれたり――しないかな」
 言葉を選びながら、ゆっくりとそう口にする。
「そ、そうだね」
 少女もようやく落ち着いてきたらしく、四苦八苦しながら起き上がりなんとかあぜみちの上へと這い上がった。いつの間にか見に来て面白がっていたチビ達二人に手を貸してもらい、べっとりと泥をつけたまま立ち上がる。
 体の上にあった重荷が消えると、随分と楽になった。
 立ち上がることは難しそうだが、這い上がるのであれば問題はない。服には大いに問題あるが、それはもはや、どうしようもないだろう。手を貸そうとする少女を断り、自力でなんとか這いずり上がった。
 服の中に泥が侵入し、正直気持ち悪い。ベトベトするどころか、体中がヌルヌルしている。
「とりあえず、いろいろと言いたいことはお互いにあると思うけどさ――」
 そこで僕は少女に一つの提案をすることにした。
 こうなれば、もう敵も味方もない。同じ被害にあった者同士だ。
「その前に、どこかシャワーを浴びて着替えたほうがいいと思うんだけど」
 少女は、まるで異論はないといった風に、コクリコクリと二回うなずいた。その後ろではチビ達がなぜか、歓声を上げて自ら泥の中に入って遊んでいる。まるで、何が楽しいのかわからなかった。

          *

 僕と浦川と名乗る少女がシャワーにたどり着くまでには、紆余曲折があった。
 まず、一度立ち上がって見てみると――僕と浦川(こう呼んでも差し支えはないだろう)が組んずほぐれつしたところだけ、田んぼがひどいことになっている。何本かの稲が倒され、泥がぐちゃぐちゃにかき回されている。
 これはまずい、なんとか証拠隠滅しようと頭を巡らせているところに、ちょうどこの田圃を所有するという爺さんが現れたから大変だった。太陽の日差しにあぶられ、泥に蒸されながら、長い説教を食らうことになってしまったのだ。
 その爺さんの指示でなんとか稲を元に近い形に戻して、その場を脱出するのに軽く十五分ほどはかかった。
 それからしばらくというもの、軽やかにスキップなどをしているチビ達の横を、どんよりと、いい年をした少年少女が歩くという構図がしばらく続いた。
 ――その前に、とは言ったが、正直なところこのままそれぞれの家に別れてそれで終わりだと思っていた。しかし、そうは問屋がおろさなかった。半ば自分で引き寄せたような不運は、最後までくっついてくるものらしい。
「その……」
 そう少女が言い出したのは、山を下り終えそのまま左に曲がってしばらく行けば家につくという所まで来た時だった。
「家の水道が、いま、壊れてて――」
 その先の言葉は、チビ達が引き継いだ。
『お風呂を貸して下さいっ!』
 マジかよ。
 そう思ったのは本日二回目だった。



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